emily

ある秘密のemilyのレビュー・感想・評価

ある秘密(2007年製作の映画)
4.2
1985年のパリ。犬と一緒に行方不明になった父を探すフランソワが昔の物語を回想する。内気で病弱な少年時代のフランソワは、ある日屋根裏で古いぬいぐるみを見つける。そこから両親の過去の秘密が明らかになっていく。父マキシムは母タニアと結婚する前に違う女性アンナと結婚していたこと。そこからナチスの手が追ってきたときに家族がとった行動と、悲劇の物語を知ることになる。

1985年のパリが現在である。現在がモノクロの映像でつづられ、回想はすべてカラーでつづられている。今のフランソワから少年期、青年期と回想の中での回想も重なり、時間軸を操りながら、濃密な両親のラブストーリーと戦争やナチ占領下の現実の刹那を緻密に描き、切り替えとテンポの良いストーリー展開を見せてくれる。

フランソワには妄想の兄がいる。フランソワがひ弱で、両親のように運動ができないのに対して、妄想の中の兄は何でも巧みにこなす。そこから現実に居た兄への重ねと、青年期の部屋から隣の部屋にスライドしていくカメラで、時間軸を超える見せ方や、時間軸は複雑に前後するが、切り替えとことのつなぎ方がよく、人物像の描写も非常に丁寧になされているので、整理しやすい。

タニア演じるセシル・デオゥ・フランスはどろどろと入り組んだ愛の物語と、社会情景の中ですがすがしいほど凛としており、すっと伸びたからだが美しく落下する飛び込みのシーンはよどんだ空気まで洗浄させそうな健やかな美しさがある。
マキシムを取り囲む二人の女性のどろどろ劇もどこかカラッとしたタッチで描かれており、そのラストの自殺行為とも思えるアンナの行動も一つの出来事としてあっさり描かれ、子供は巻き添えをくらってしまう。

対比する現実や過去、微妙な心情につけ込むように展開していくサスペンスが導く悲劇。そのすべてを知り、その中で生かされていることを知り、そこから成長へとつなげて行く。それは両親への許しとともに、自分のふがいなさへの許しにもつながっていくのだ。重い秘密と共に、現在のモノクロにカラーが灯り、秘密とともに語り継がれていく。確かに存在したその人たちと、そこから自分へ、娘へとつながっていることを。
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