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バンド・ワゴンのrsのレビュー・感想・評価

バンド・ワゴン(1953年製作の映画)
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『悲劇も試練もここにはない。歌とダンス、芸術があるのみ。これがエンターテイメント』

映画は「陽気な歌と華麗なダンスを、どうぞお楽しみください」と謳う。
色とりどりのテイストでミュージカルシーンを繰り出し、人生の仄暗い苦悩さえ軽快に描いてみせる。
夜の公園で男女が踊るDancing in the darkの、なんと甘美なこと。優雅に流れるロマンティックな空気を、うっとりと吸い込む。ふたりが身を翻して起こす風に、心を柔らかく撫ぜられる。

これは、落ちぶれたミュージカルスターが、時代の変容や仲間との対立に苦戦しつつも、再起をかけて舞台に挑む物語。アステアやミュージカル映画界もまた、斜陽にさしかかっていたという背景が、主人公の苦悩に重なる。
「我が道をゆこう ひとりでも歩いていこう ひたすら心で歌うのさ」
独りごちる主人公の歌は、ミュージカル映画の寂しい決意でもあったのか。未知を恐れず自分の世界を創るのだと。

孤独な道を覚悟する主人公だったが、共に舞台を創りあげた仲間たちが歌で寄り添う。
「彼は誰もが認める素晴らしき仲間」 
あなたはひとりじゃないと、美しいコーラスが彼を包んだとき。
ショウビズの世界に生きる同志への想いが、この映画に込められていたと知る。

銀幕の向こうの観客に笑顔を届け、舞台袖の仲間にはウィンクを飛ばす。そんな映画のフィナーレを、That's Entertainmentが飾る。
「これでおしまい、お気に召したでしょうか」
そう映画が笑いかけるのは、私たち観客にだけではない。
歴代のエンターテイナーへ敬愛を。将来のエンターテイナーへ激励を。

「我が道を進むと決めれば それがエンターテイメント」
これまでとこれからのミュージカル映画に捧げた、遠い昔の誇り高き讃歌。
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