まちゃん

チャップリンの殺人狂時代のまちゃんのレビュー・感想・評価

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
3.7
主人公ヴェルドゥは上品さの中に底知れない怖ろしさを持った不気味な男だ。しかし、生まれながらのモンスターではない事は妻子と接する時の優しげな表情を見ればわかる。では何がヴェルドゥを冷酷なモンスターに変えてしまったのか。それは銀行をリストラされた時に強烈な被害者意識を持ってしまったせいではないだろうか。30年間真面目に勤めてきた事はお札を数える時の鮮やかな手つきでわかる。その銀行に裏切られた時に社会への復讐心が芽生えてしまったのだと思う。社会を敵として認識したヴェルドゥの目には人間が個人ではなく社会の代表としてしか映らない。一人の人間ではなく嫌悪すべきブルジョワ。これはあくまでもビジネス。捉え方が変わるだけで冷酷な事でも躊躇わずに実行できてしまう。人間のモラルの危うさを気付かされる。ここで重要なのは毒薬の実験の為に身寄りのない女性を拾ったシーンだ。殺人鬼ヴェルドゥが話をして心を持った一人の人間と認識した瞬間に殺せなくなってしまうのだ。「またお会いしましょう」というヴェルドゥの予言が現代でも有効なのは悲しい事だがそれに対抗するのは人間の小さな絆の積み重ねしかないのだと思った。
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