りほこ

チャップリンの殺人狂時代のりほこのレビュー・感想・評価

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
4.5
これはチャップリン映画の本質とも言えるのではないかな、と思った作品。

「喜劇王」として世に名を馳せたチャールズチャップリン。かれは変わったメイクとそれに合わないモーニングを着て、奇怪な動きをして、面白おかしく世間を笑わせていた。そんな彼がこの映画で演じたのは「殺人犯」。題名の割に狂気的なシーンがあるわけでも、所謂殺人犯的なおぞましい性格が露わにされるわけでもない。ただ普通の男性。相手によって様々な詐欺をする事で、多くの女性からお金を巻き上げ、挙句にあっさりと関係を切り捨てる(この映画の場合は殺してしまう)。そんな彼には車椅子の奥さんと可愛い息子がいて、家族の為にやった事なんだなぁ、て同情を奪われるシーンもある。お金を巻き上げようとした女性に情を許し、殺さずに逃す場合もある。(この女性は後に、大切な役割を果たす)チャップリンの描く殺人犯は、情にも流され、時に非情にもなる、そんな普通の人間。


この映画の最大の見所は、まさにラストの裁判のシーン。「この人は多くの女性を殺した、狂気的な殺人犯だ」多くの人がそう叫ぶ中、彼の反論は
「一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。殺人は数によって神聖化される。」
彼は死刑執行の前に、葡萄種を飲み、微笑む。

この前読んだ漫画でも、同じ事を考えさせられた。「殺人はどうしてダメなのか」
"秩序で平和な安定のある生活の為、私達は守る事を前提として社会で生きていて、それを常識と踏まえて周りと接している。ただ実際戦時下に入ってしまえば、沢山殺した方が責められるどころか、褒められる状況になる。そんな2枚舌の話。"
ドキッとしたなぁ。チャップリンが第二次世界大戦直後に作った作品で訴えていたことは、70年以上経った現在でも同じ様な事を考えて作品にしている人がいる。いつの時代もどんなに時が経っても、人間は繰り返し心に留め続けなければ、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないから。
昔の映画を掘り出して観ることが多くなった最近、家族とこの映画懐かしいなぁ、今のこんな作品に似てるね、て話すのが楽しいなぁ。本や映画は内容は変わらない。でも観る人が変化すると、捉え方も感じ方も変化する。無くしてはいけない物だなぁ、て改めて思う今日この頃。
りほこ

りほこ