ルサチマ

GOOD-BYEのルサチマのレビュー・感想・評価

GOOD-BYE(1971年製作の映画)
4.5
冒頭、失語症の少年がラーメン屋へ向かう過程が描かれ、庭先に立つ音頭をとるオヤジと少年、川沿いを歩く中年女性との印象的なすれ違いを収めた後、ラジオ体操の音楽が流れるラーメン屋の店員に注文を聞かれ、うまく答えることができないまま帰路につくと、再び少年の目覚めからラーメン屋へ向かうまでの道中が差異を含みながらループされていく。ここがなにより素晴らしい。その後、失語症かと思われた少年は川沿いで出会った中年女性に海へと導かれ、彼が失語症の振りをしていることが暴かれるのだが、そこから突如場面は海を超えて朝鮮半島へと移りゆく。少年は見知らぬ朝鮮半島の中で、彼にカメラを向けている金井さんへ声をかけるというブレヒト的異化効果が見られるが、問題はそんなことではない。ここから物語は金井勝自身の父を探すドラマへと筋道が立てられることになるのだが、この後の展開については更なる荒唐無稽さへと結ばれるため、最早物語の顛末を追う気にもならない。
ともかく、この映画が明らかに金井勝が幼少期に体験した戦時下の教育とその後の日本社会の動向との差異を描いたものであるという前提のうえで、気になるのは冒頭のループの中で出会う人々と、「最初の」主人公であるむささび童子が失語症のフリをしていたということ。そして、海辺へと少年を誘う中年女性が「私はもっと昔からあなたのことを知っているの」と投げかけ続ける台詞から想像されるあらゆる歴史の繋がりの中での類としての母性性。録音の性質上、明らかにアフレコで足されたであろう低音の声であるにもかかわらず、この中年女性の発話の仕方が砂浜で体を捻るようにして、失語症のフリをする少年へ向けて強く暴力的に響いていることが驚くべき効果を生んでいるように思われる。
鑑賞中、あまりに同年代のドキュメンタリーともフィクションとも異なるこの映画に翻弄され続けた。
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