S

やさしい女のSのネタバレレビュー・内容・結末

やさしい女(1969年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

2021/12/06 名古屋シネマテーク
デジタル・リマスター版

今年生誕200年記念にあたるドストエフスキーの短編小説「やさしい女 幻想的な物語」を翻案し、舞台をロシアから製作当時のパリに置き換えて映画化したブレッソン初のカラー作品。

ショッキングな結末で幕開けする本作。
質屋の主人に嫁いだ若く美しい妻の不可解な行動を夫の目線で探っていく回想の形式をとり、結婚また愛の本質を投げかけた年齢差夫婦の心のすれ違いを描く。

17歳のドミニク・サンダの輝くような美しさを堪能する作品である。大好きな作品『暗殺の森』などでベルトルッチ監督ミューズとなるサンダをモデル時代に見出したブレッソンの審美眼が素晴らしい。(『バルタザールどこへ行く』のアンヌ・ヴィアゼムスキーも同様に)

自らも15歳で年上の男と結婚するも数カ月で離婚という経歴を持ち、映画初出演にして年上の夫を翻弄しながらも苦悩する女をサンダは見事に演じている。彼女の視線の鋭さは、恐ろしいまでに心境の変化を物語っていく。
職業俳優ではなくモデル(素人)を起用したシネマトグラフ-極端なまでに排除された台詞、身体の一部のクローズ・ショット、生活音を効果的に用いた簡潔かつ的確な演出のなか、ふたりの男女の視線のドラマともいえる。人が人を見つめることが映画であるという根源的な事に気付かせてくれる作品である。

残酷にネジを閉める手のクローズ・ショットへと繋がる円環のラストへと、ブレッソンのミニマルな気質が冴え渡る。次作『白夜』に先駆けて制作され、冒頭にも書いた通りに厳格なモノクロームばかり撮り続けてきたブレッソンが初めて手がけたカラー映画で、撮影監督は『少女ムシェット』やジャック・ドゥミ監督『ロシュフォールの恋人たち』のギスラン・クロケ。画面の隅々まで緻密に考え抜かれた寒色系(緑青)中間色を基盤としたブレッソン・カラーを決定付けた作品だと言えよう。鮮血でさえワイン・レッドで描く徹底ぶり。例えると芳醇なヴィンテージワインをじっくりと味わうようなイメージ。
至福のひとときであった。


2021-336
S

S