垂直落下式サミング

ブレイド2の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ブレイド2(2002年製作の映画)
4.2
ヴァンパイアと人の混血として生まれた半人半妖の黒人青年ブレイドが吸血鬼ハンターとなり、夜の闇に潜むヴァンパイアと人知れず戦う活躍を描くシリーズの第二作目。監督は最近話題の男、ギレルモ・デル・トロ。
コミックヒーロー映画でありながら、吸血鬼の原点に立ち返り、昔ながらの怪奇映画のような湿っぽいゴシックテイストを取り入れたアクション映画となっている。
ブレイドは、人間社会からは疎外され、ヴァンパイアからも「Day Walker(日光の下を歩く者)」と呼ばれ憎まれている。本作では、そんな彼が、人はもとよりヴァンパイアすらも食らう新種「死神族(リーパーズ)」を退治するのに力を貸してほしいと、ヴァンパイア側から協力を持ち掛けられ、彼らと一時休戦し共にリーパーズを追うこととなる。
昨日まで敵だった者たちと協力してリーパーズを討伐するブレイドだが、リーパーズもまた彼と同じ所属のない孤独な存在だ。終盤に明かされるリーパーズの正体などはコミック映画にしては重く、何か心に引っ掛かりを残すが、妖怪たちが自然界の調和を乱すものをこらしめる『ゲゲゲの鬼太郎』や『犬夜叉』の1エピソードのようで、そんなに特別な話だとは感じなかった。
デルトロ監督が日本のアニメ・漫画に影響を受けていることなど今更言及する必要もないし、本作は職人的な技量を買われての起用という面が強いため、ストーリーそのものに彼自身の作家性は反映されていないが、人間の味方をしてくれるヒーローの出自が実は怪人や怪獣と同質のものであるという設定は、日本人にとってなじみ深いものだ。
仮面ライダーはもともとショッカーの改造人間で、ウルトラマンだって地球外から来たエイリアン、鬼太郎にいたっては自身も妖怪である。「お前は俺たちと同じ怪物なのにどうして人間の味方をするんだ」と、ヒーローが悪役から裏切り者めと罵りを受けるのは漫画でもアニメでもよくある図式である。
監督はのちに『ヘルボーイ2ゴールデンアーミー』で、本作よりさらに踏み込んだ問い掛けをしていて、そこでは戦いを終え同族を滅ぼしたヒーローが世界に失望し去っていくという決着をみせるなど、物語に対して誠実な作り手であることがわかる。
その点、本作はスナイプス映画なので、被害者でもあるはずのリーパーズと戦うブレイドに一切ためらいは無い。リーパーズの造形はおぞましくも悲哀を感じさせ、その生態は食物連鎖の枠から外れた害獣・別種・禁忌の存在であることが強調されている。
魂と肉体が繋がっていない感じとでも言うべきか、強くて危険なのにどこか脆弱で、その比類なき食欲や凶暴さには、普通にしていては命を繋げない不憫さが内に秘められていて、理から外れ無理やり生きている生物の様相である。外見は基本に忠実なノスフェラトゥなのだけど、顎が縦に割れて食らいつくのはシンゴジラを先取りしており、これはさすがのデルトロイマジネーション。年甲斐もなく、けんぞくぅかぷってしちゃえー!とはしゃぎたくなってしまう。ウェズリーちゃんはさいきょーですし!
今回はアクションに武術の動きを取り入れていて、機敏で細やかに、力強く豪快に、さらには飛んで跳ねてのCGも取り入れて、スナイプスの大きな体がキビキビと動き回る。このアクション指導を務めたドニー・イェンがキャストとしても日本刀を携えて跳び蹴りを披露するなどして楽しませてくれる。1人だけ東洋人だからか、彼の吸血鬼メイクだけ顔色が悪い感じにみえて心配になってしまった。
デルトロ趣味が発揮されている場面は、リーパーズ討伐部隊のメンバーがあからさまに『吸血鬼ハンターD』の映画に出てくる傭兵兄弟っぽいところ。お好きでござるなデルトロ氏!このあたりで彼のガチオタっぷりがよくわかる。
肉体派俳優として脂の乗った時期のスナイプスと、作家として存在感を示しはじめたギレルモ・デル・トロ、そしてコミックの実写映画化プロジェクトに動き始めたマーベルスタジオが夢のコラボレーションをした宝物のような映画だ。