つのつの

デッドゾーンのつのつののレビュー・感想・評価

デッドゾーン(1983年製作の映画)
4.3

寒々しい、物悲しい映画。
何故ならこの映画は「マクロな物語に逆らえない人々」の物語だから。

ある日突然巨大な不条理に押し潰され決定的に人生が狂ってしまう主人公。
その瞬間を示すシーンで、文字通り巨大なタンクローリーが彼を「押し潰す」。
最終的に彼が辿る末路も、「地球の未来を救う」という巨大な物語の踏み台にされていくというとても悲惨なものだ。
不条理にも人生が狂っていくのは、主人公だけではない。
恋人、主治医、家庭教師先の家族、連続少女殺人事件の犯人の家族。
彼らは皆、主人公の予知能力によって悲劇は避けられるが決してその後も幸せそうには見えない。
命は取り止めてもそこで悲劇は終わらないのだ。
確かに命を取り止めるということは、おそらく最良の選択肢だ。
だから主人公もそうしてやるしかない。
でも最良の選択肢は必ずしも人を幸せにはしないのだ。
個人的に一番辛かったのは、主人公の恋人。
彼女が「あの時引き止めておけばよかった」と後悔の念にかられるシーンが悲しすぎる。
だからこそ彼女と主人公、そして彼の父が幸せな家族のように食卓を囲むシーンにはまた涙腺が緩む。

こんな辛い物語を彩る映像の寒々しさも印象的だった。
雪、木枯らし、枯葉といった冬の景色は人間ドラマの寂しさに拍車をかける。
勿論、クローネンバーグ らしい不気味な描写がちゃんと観れるのも楽しい。
寒々しい映像とこの主人公の造形(雪景色の中、ロングコートで佇む後ろ姿とか)は多分プレードランナー2049に影響を与えているのかもしれない。

超能力、SF、ホラー、ポリティカルサスペンスなど様々なジャンルを移動していく本作だが、それでも根底にあるのはラブストーリーだと思う。
ラストの切なさは、二人の愛が静かに、でもしっかりと描かれているからこそのものだ。
不条理な現実によって逃れ得ない過去を背負いすれ違い続ける2人のドラマから本作は逃げていない。
全てが終わってから改めて思い返すと、寒々しいけれども確かに幸せだった序盤のデートシーンが切なく響いてくる。
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