シュローダー

デッドゾーンのシュローダーのレビュー・感想・評価

デッドゾーン(1983年製作の映画)
4.2
未来予知の能力が覚醒してしまった男の孤独な戦いを描く。この映画の特徴としては、全編に漂ううらぶれた空気感。とにかく静かで、超能力物の前作「スキャナーズ」とは対照的に、派手な場面は非常に少なく、5年の昏睡期間から目覚め、超能力に覚醒した男の精神が如何に変容を遂げるか、それによって他人からの理解を失っていくまでの過程を丹念に描写していく。時間は残酷に過ぎ去り、結婚を誓い合っていた女性は子連れになっていた。予知能力を持った所で、彼は救われはしない。頭は痛み、足は自由に動かず、苦しみと孤独が増すばかり。そして、彼がついに自分の能力の本当の役割に気づき、行動を起こす。しかしそれは、客観性を担保して描かれる事はない。それが真の意味で"正しい"行動なのかは、神のみぞ知る。あの切ないラストは、孤独な彼の人生にもたらされた唯一の救いではなかろうか。クローネンバーグの作品でも、最も大人の諦観を携えた作品であろう。いかんせん地味だが、それが良い。