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リアリズムの宿のhiyoriのレビュー・感想・評価

リアリズムの宿(2003年製作の映画)
4.2
山下敦弘監督の作品。これだけ低予算で展開がない映画に幸せで満たされるとは思ってもいなかった。本作のように観客にどのように見せようなどという作為性を一切感じさせずに笑わせたり、感傷に浸らせたりする映画こそ映画のあるべき姿だと思う。また27歳で本作を製作したという山下監督が映画監督のクサさに敢えて釘を刺すような皮肉めいたことをする辺りからも自身の作家性を存分に発揮した作品といえるのではないだろうか。映画監督なら誰でも大衆性と芸術性の間で苦悩することだろう。そのようにして見栄を張る彼らは側から見れば小心者だ。突然現れた尾野真千子演じる女性が突然姿を消したことに呆然と立ち尽くすことしかできない。どうすることもできないままただ流されていくだけの旅。一人前に野心は持ち合わせているのに、未だこの世界に何の影響も与えることのない二人なのだ。そんな二人だからこそ共有できる感情がある。そのように自分の感性を大切にしながら人は世界を広げていくのだろう。展開もないし劇的でもないのだが、人間臭さが滲み出るとこんなにも面白いのか。初対面の二人が互いに探り合い、喧嘩したり笑い合ったりして融和していく脚本の会話も最高。
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