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カップルズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

カップルズ(1996年製作の映画)
3.9
 夜の街を蛇行しながら走るMINI CABを、ピンク色のジャケットを着た男がバイクで追いかける。男はどうやら組織の上司から指示を受けているらしい。組織は悪徳実業家で大富豪の父親を探しているが見つからず、彼の息子であるチェンに狙いを付ける。ほどなくしてMINI CABから2人組が降りるが、男は軽トラを追う。すると無軌道な走りを続ける軽トラは右にハンドルを切り、停車していたピンク色のベンツの横っ腹をえぐる。リーダー格のレッドフィッシュ(タン・ツォンシェン)、ハンサムな女たらしホンコン(チャン・チェン)、口達者なトゥースペイスト(ワン・チーザン)、新入りのルンルン(クー・ユールン)は無軌道な暴力を繰り返す不良グループだった。悪徳実業家を父に持つレッドフィッシュの号令のもと、詐欺まがいの荒稼ぎをしたり、一人の女の子を回したり、アパートの一室で勝手気ままな生活をしていた。その日、イギリス人の実業家マーカス(ニック・エリクソン)を騙そうと画策していた4人はアリソン(アイビー・チェン)を手玉に取るが、もう1人の女マルト(ヴィルジニー・ルドワイヤン)に目を付ける。彼女は元恋人であるマーカスが忘れられず、遠くフランスからこの地にやって来ていた。レッドフィッシュは、右も左も分からない彼女を言葉巧みに誘い入れ、売春組織に売り飛ばそうと企む。

 『クーリンチェ少年殺人事件』で主人公を演じた張震とプレスリーを歌う王啓讃を再びメイン・キャストに起用した物語は、バブル経済末期の台湾の危うさの中で男たちがもがく。悪名高い父親を疎ましく思いつつも、その冷酷な人生哲学に倣って生きるレッドフィッシュは、かつて父を破産に追い込んだ女アンジェラに復讐計画を練る。『クーリンチェ少年殺人事件』同様に、ここでも父との確執は重く深い。一方で最近入った新入りで、悪に染まりきっていないルンルンは、マルトの健気な可愛さに恋をする。彼ら4人を執拗に追う組織の殺し屋2人組などフィルム・ノワールの要素を取り入れながら、享楽的に生きる男たちは女たちを騙し、生き永らえる。『クーリンチェ少年殺人事件』で張震が放ったナイーブな魅力は今作ではルンルンにトレースされる。張震の役柄は『クーリンチェ少年殺人事件』の小四とは対照的な人物だが、その未来はグラグラと音を立て、今にも崩れそうな危うさを秘めている。クライマックスのマーカスの言葉が象徴するように、台湾は右肩上がりで成長を続けたが、そのレールから外れた落伍者たちの焦燥感をエドワード・ヤンは長回しを巧みに駆使しながら、突き放すような冷たい視線で描く。残念ながら『クーリンチェ少年殺人事件』のような奇跡は起こらないものの、決して嫌いになれない映画である。
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