東京キネマ

コーマン帝国の東京キネマのレビュー・感想・評価

コーマン帝国(2011年製作の映画)
3.8
本ドキュメンタリーの主人公ロジャー・コーマンは、ハリウッドで60年間も映画を作り続けた巨人に違いありませんし、全世界の映画業界人から尊敬を集める人であろうと誰しも認めるところでありましょうが、私、正直に言えばこの方の映画を観たいと思ったことは一度もありません。 結果的に観てしまった映画は何本かありますが、ほとんどの場合、残念な思いしか記憶に残っていません。

が、不思議なことに嫌いになりません。 その理由がこのドキュメンタリーを見て分かったような気がします。

まず、この手のドキュメンタリーには絶対出演しないデ・ニーロやジャック・ニコルソンが出てとうとうと喋っている。 特にニコルソンなどはインタヴュー途中に感極まって嗚咽している。 えっ? なんで? この瞬間に? と理由が分かりません。 確か言葉に詰まらせる直前 “彼は400本も映画を撮った人なんだ・・・” と言ったようでしたが、どこで、どう繋がれば、嗚咽するようなことになるのか・・・。

考えてみると、ニコルソン最後の出演作『幸せの始まりは』の公開が2010年。 その後 「ボケでセリフが覚えられないのじゃないか・・・」 という報道が出た時期がちょうどこのインタヴューの撮影時期でした。 そう考えると、ロジャー・コーマンと将来の夢を語り合った若き時代の絆というか友情というか、そういった熱い感情が蘇った瞬間だったと理解することもできます。

しかし面白いのは、クリエイティブに関して全て同意している訳ではなく “出来上がった映画を観に行くのは恥ずかしくて最悪の気分だったよ” と言っていますし、“だが時たま間違えて、彼が良い映画を撮ることもあるんだ。そんな時に限って俺は出てないんだけどね・・・” と苦笑もしているので、まあ、ここらへんは分かり合っている大人の関係ということなのかもしれません。

ロジャー・コーマンは、映画とは何か、と問われて、「早く安く作る」「センスは二の次」「現場に警察が来たら逃げること」 とこれまた明快です。 『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』 は本人の自伝タイトルですが、これはまあ一つの隠喩であって、逆に解釈すれば、むしろボロ儲けをしたことがないという話です。 映画は3本コケて1本で全て回収する、というのは映画の創成期以来の収益モデルですから、1本も赤字を出していないということは、逆に大化けした映画はなかったとイコールなのです。

やはりと思われるのは、業界の環境が変わってしまったのは1977年の 『スターウォーズ』 公開からで、ロジャー・コーマン本人も言っていますが、この映画こそが脅威だったと言い切っています。 なぜなら、“我々が作る10万ドルの映画を大手のスタジオが理解したのだ。それを数百万ドルかけて作られたら、そりゃもう我々には勝ち目はないよ” と。 ニコルソンはもっと直截的に怒りを剥き出しにしていて “『スターウォーズ』は大嫌いだ。 あれが死ぬほど儲けていなければ、まだ残っていた筈なんだ。 妙な緑に光る光線がね。” と言っております。 従って、ニコルソンはスピルバーグやルーカスの映画には一本も出演しておりません。

まあ、正直に言えば、南加大(USC)出身の映画エリートが出てきて、B級映画を、それもとんでもない多額の製作費をかけて映画を作るようになったのは、ある意味、時代の要請でもあったと思われるので、こういった感慨はちょっとセンチメンタルだとは思いますが、それでもロジャー・コーマンやニコルソンにシンパシーを感じてしまうのは、映画をビジネスだけで割り切ってはいけないという信念があるからでしょう。

しかしどうしても考えてしまうのはやはり日本の状況で、日本にも沢山のロジャー・コーマンが居た筈なのですが、たったの一人も生き残っていません。 センチメンタルな気分になるだけまだマシだよ、と嫉妬するだけです。。