櫻

野菊の如き君なりきの櫻のレビュー・感想・評価

野菊の如き君なりき(1955年製作の映画)
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原作は伊藤左千夫の『野菊の墓』。

年老いた男の追憶。後先少なくなると、過去の思い出ばかりが煌めいて見えてくる。あの時は戻ってこないけれど、いつでもあの頃のことを鮮明に思い出すことができる。あの頃の叶わなかった哀しみも、輝きと共に蘇ってくる。

「民さんは野菊のような人だ」
小説でも一等瑞々しく輝いている、ふたりが野菊の花を見て会話する場面。ふたりにとっても、きっと夢のようなひとときだったはずだ。直接的な言葉を交わさずに、いじらしく半ば想いを告げ合うふたり。民さんは野菊、政夫はりんどう。あまりにも純で可憐なふたりが、いっそ野の花として隣り合って生えていたならどんなに幸せだったろう。そしたら、こんな風にはならなかったはずだ。幼い頃から一緒にいて、年を重ねるうちに、女として、男としての決められた未来の足音が襲ってくる。こんなに互いが想いあっているのに、いつまでも一緒にはいられないなんて。こんな風に勝手な大人たちに引き裂かれたふたりが当時どれほど居たことだろう。

女が家に入ると書いて、嫁ぐ。秘めた想いを隠し、望まぬ結婚をしたが、環境に恵まれなかった。この世に光を見失ってどんどん弱っていき、哀しみに暮れ横たわる民子。最期まで幼い頃から一緒にいた政夫のことを想い続けていた。りんどうと政夫からの手紙を握りしめ、この世を去っていったのがなんとも切ない。