ちろる

野菊の如き君なりきのちろるのレビュー・感想・評価

野菊の如き君なりき(1955年製作の映画)
3.9
伊藤左千夫作「野菊の墓」を初めて映画化した木下恵介監督作品。
信州に故郷を久しく離れていた笠智衆さん演じる語り部が、まだ若き頃に叶わず消えた悲恋を回想する物語。
今を見せる老人のパートは遠き日に想いを馳せながら紡ぐ短歌でその拭えぬ想いを表現し、それとシンクロするように若き少年時代の親類の民子との初々しい交流が清らかで美しい。
無邪気に絆を深める2人の関係に水を差す姉たち、戸惑いながらも見守る母親の存在により次第に2人の交流にぎこちなさが生じてしまうまで。
親類の民子も息子の政夫のことも可愛くて仕方ない故に手離したくはないが、一緒にさせることもできないと嘆く母を演じる杉村春子の表現がとても良かった。
民子役は初めて観た女優さんだったが彼女の可憐で儚げな雰囲気は本当に野菊そのもので、81年で同じく民子を演じた松田聖子さんの5倍くらい素晴らしかった。
彼女が愛おしくて、哀れで、そんなシーンは映らないのに民子がほんとに毎日毎日リンドウを愛おしく握りしめていたのかもと思ってしまう。
「私はなんで政夫さんより2つも年が上なのでしょう。」
この悔しさの意味がまだ若い政夫にはわからなくて、でも民子にとっては押しつぶされるほどの事実でそのズレた若き2人の感覚の切なさも描かれて好きな仕上がり。
自分でも驚くくらいおいおい泣いてしまった。
「野菊の墓」がまだな方、81年版のカラーの方が台詞も映像も分かりやすいのかもしれないけれど、出来れば是非この木下監督で堪能してほしい。