YYamada

ハート・ロッカーのYYamadaのレビュー・感想・評価

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
3.9
【戴冠!アカデミー作品賞】
 第82回 (2008) アカデミー6部門受賞
 (作品/監督/オリジナル脚本/編集/
音響効果/録音)

【戦争映画のススメ】
ハート・ロッカー (2008)
◆本作で描かれる戦地
2003-2011年 イラク戦争による、
 アメリカ軍のイラク駐留 (フィクション)
◆本作のポジショニング
 人間ドラマ □□□■□ アクション

〈本作の粗筋〉 allcinema.netより抜粋
・2004年夏、イラクのバグダッド郊外。アメリカ陸軍ブラボー中隊の爆発物処理班の任務中に殉職者が出たため、ジェームズ二等軍曹を新リーダーとして迎え入れることに。こうして、サンボーン軍曹とエルドリッジ技術兵を補佐役とした爆弾処理チームは、任務明けまで常に死の危険が孕む38日間を共にしていく。
・しかし、任務が開始されると、ジェームズは慎重を期して取るべき作業順序や指示を全て無視し、自ら爆弾に近づいて淡々と解除作業を完遂。サンボーンとエルドリッジに戸惑いと混乱が生じ、衝突も生まれるたものの、酒を酌み交わしジェームズの一面も垣間見ることで理解を深め結束していく3人。だがやがて、任務のさなか度重なる悲劇を目の当たりにしたジェームズは冷静さを欠いた感情的行動に走り、3人の結束を揺るがす事態を招いてしまう…。

〈見処〉
①永遠を思わせる戦場。
 刹那を生きる男たち──。
・『ハート・ロッカー』は、2008年に製作された戦争映画。タイトル「The Hurt Locker」は米軍のスラング「苦痛の極限地帯」「棺桶」を意味する。
・地獄の炎天下で処理班と姿なき爆弾魔との壮絶な死闘を描いた本作は、製作費16億円の低予算のため、撮影は4台以上のスーパー16ミリカメラを同時撮影するスタイルを取り、撮影されたフィルムは200時間に及んだが、緊迫感溢れる構図となっている。
・また、本作のロケは治安面を考慮しモロッコで撮影する予定であったが、監督の判断により、物語の舞台のイラクに近い中東クウェートとヨルダンのアンマンで行われた。
・本作の出演は『アベンジャーズ』シリーズのジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー。現在ではスター俳優となった彼らであるが、低予算の本作では通常のハリウッド作品と異なり、個人用のバスルームや空調の整ったトレーラーは与えられず、実際にアメリカ軍の軍事訓練を受けて撮影に臨んでいる。
・第82回アカデミー賞では、本作監督キャスリン・ビグロー元夫のジェームズ・キャメロンの『アバター』と賞レースを争い、本作は、作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞・編集賞・音響編集賞・録音賞の6部門を制し、ビグロー自身も史上初の女性による監督賞受賞という快挙を成し遂げた。

②結び…本作の見処は?
◎:「イラク人がイラク人に爆弾を仕掛ける事態を招いたのはアメリカなんだ」…作中のジェレミー・レナーのセリフのとおり、イラクにとっての「必要悪」フセイン大統領を米国が排除したことで生じた「中東の不安定さ」。女性視点を感じさせない、女流監督キャスリン・ビグローによるリアリティ高い演出は、アカデミー監督賞に相応しい。
◎: 低予算作品なれど『ボーン・アイデンティティ』のようなハンディカム撮影を
多くのコマ割りで繋ぐ戦場アクションシーンは、迫力満点。また、冒頭の時限爆弾の爆発シーンの超スローモーション演出は刹那的に美しい。
○: 上映時間131分の長尺作品ながら「緊張と緩和」を高いレベルで紡いだ本作の脚本は、アカデミー・オリジナル脚本賞に相応しい。戦場での極限状態と、帰国後の日常生活の虚無を対比させ、兵士にとって戦場の麻薬性を明らかにしている。
YYamada

YYamada