naoズfirm

ハート・ロッカーのnaoズfirmのレビュー・感想・評価

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
3.6

戦士🎬

ストーリーはイラク戦争を舞台に爆弾処理班として戦地で任務を遂行する兵士の姿を描いた作品でした。今作はアベンジャーズで共演した、ジェレミーとアンソニー・マッキーが出演していました。イラク戦争を題材にした映画は過去に色々と制作されてきましたが内容としては、「アメリカが関わったイラク戦争は是か非か?」、正当性を問うものが多かったです。一方で今作と他の映画との違いは「戦争を否定も肯定もしていない」点です。もちろん、ストーリーはアメリカ側の視点から描かれているので完全に中立というわけではないですが、それでもイラク側を明確に”悪人”として描写しているシーンはほぼありませんでした。そもそも主人公たちの目に映る範囲の状況しか画面に映らないため、テロリストの姿自体が見えないのです。これにより、ドラマの臨場感やリアリティが一層高まっています。

主人公が所属する”爆発物を処理する専門組織”は、第二次世界大戦中に初めて設立され、1942年にドイツ軍がロンドンに時限爆弾を仕掛けた際、特別に訓練されたアメリカ兵がイギリス軍に加わり、一般的な道具を使って信管を外す前に、鉛筆で図解をしてから爆弾を処理したのが始まりだそうです。当然ながら、爆発物処理班EODの仕事はあまりにも危険なため、他の軍人に比べて死亡率が5倍以上も高く、離別やパートナーとのトラブルも日常茶飯事で、EODとは「Every One Divorce(みんな離婚している)」の略だと言われるぐらい、離婚率もズバ抜けています。今作のタイトルである「ハート・ロッカー」とは、「苦痛の極限状態」や「棺桶」を意味するアメリカ軍のスラングです。そして、この物語は、そんな爆発物処理のエキスパート、ジェームズ二等軍曹の日常を通じて、常に死と隣り合わせの危険な業務を遂行する3人の兵士たちの姿を克明に映し出しています。中でもハンディカメラを多用した臨場感溢れる画面構成と、爆発物を処理するシーンのリアリティさに驚きました。「いつ爆発するか分からない緊張感」が凄まじい!主人公の顔に限界まで接近する暑苦しいカメラワークと相まって、思わず息を止めて見入ってしまいました。

砂埃が舞い陽炎が漂う過酷な戦場でただ消費されていくだけの若者たちの姿を、渇いたタッチで描き切ったキャスリン・ビグロー監督の映像センスはやはり只事ではないですね。「戦争は麻薬だ」という冒頭の言葉や、救いの見えないラストシーンなど、作品全体を包み込む閉塞感、そして生と死の狭間で終わらないゲームを延々とプレイし続ける孤高のソルジャーと化した主人公の言動。度重なる戦闘によって彼の心は既に壊れかけており、もはや”戦場でしか生きている意味を実感できない状態”になっていました。私が今作では最も印象に残っている終盤のシーンで、ジェームズが大量の爆弾を前にしていきなり防護服を脱ぎ捨てる場面がある。「何をやってるんだ!?」と驚く同僚に対し「死ぬ時は苦しまずひと思いに死にたい」と答え、淡々と作業に取り掛かかるというシーン、、それは死を覚悟して忠実に職務を遂行する勇敢な兵士のように見えるが、一方では「永遠に続くこの地獄から早く解放されたい」と神に願う殉教者のようにも見えてました。結局、ギリギリの死線をくぐり抜けたジェームズは、無事に任期を終えて妻と子供が待つ故郷へ帰ることが出来ました。しかし、何かが違う…。せっかく平穏な日常へ戻ってきたのに、彼の居場所はもう、そこには無かったのです。そして、新たなる任務を遂行するため、再び死地へ降り立つ。そんな彼の後姿に何を感じるだろうか?まさにアメリカの現状を象徴するようなラストシーンと言えます。
naoズfirm

naoズfirm