滝和也

罠の滝和也のレビュー・感想・評価

(1949年製作の映画)
3.8
「俺は勝ったんだよ」

ロバート・ワイズ監督と
名優ロバート・ライアン
が組んだノワールサスペンス。

「罠」

僅か72分の小品ながら、ボクサーの矜持、男の意地、待つ身の女の揺れ動く気持ちを少ない台詞で描き出した佳作。また後半のサスペンス・ノワールが素晴らしい…。

ストーカー(ライアン)は既に35歳のロートルボクサー。恋人のジュリーは負け続け、殴られる彼をもう見たくなかった。試合会場の目の前のホテルにいるにも関わらず、今日は見ないと言う。ストーカーは失意の中で会場入りするが闘志は衰えていなかった。だが彼のマネージャー、トレーナーはマフィアと裏取引し、負けを約束していた…。

試合会場入りから試合、そして会場から出るまでのドラマを上映時間とリンクさせた真昼の決闘と同様のスタイル(オープニングとラストに時計塔が映りますので。ただ真昼の決闘ほどのサスペンス効果はあげてません)。

八百長試合に巻き込まれたロートルボクサーの悲哀を描く訳ですが、ボクシングものとしても本格派。前半のタコ部屋みたいな控室。勝ったボクサーの興奮した姿、ルーキーの不安、暗示をかけるようにリングに向かうベテラン、そして担ぎ込まれる敗者と哀しみにくれたロートルボクサーの緊張を高める演出。そして挟み込まれる街を彷徨う彼女の姿がボクサーと言う存在を更に浮き彫りにしていきます。

また試合シーンも中々迫力が。ただイマイチ長いのと、ライアンがネコパンチ気味なのが惜しい…。ただこの作品、あくまで試合は前座。この後のノワール的な展開が実は肝。ラストに向うひりつく演出が素晴らしい。光と影をギラつくようにくっきりさせた撮影がサスペンスを盛り上げるわけです。

そしてラスト。明らかに胸糞悪いのですが、その余韻は男にとっても、女にとっても実はハッピーエンドなのかもしれないと私は思ってるんです。ボクサーである彼にとって残されたものはあった訳ですからね。両方にとれる賛否ある余韻のあるラストがまた素晴らしかったとしたく(^^)

後世のボクシング作品にも影響があったのではないかなぁと感じる作品。後にウェストサイドストーリー、サウンドオブミュージックを撮るロバート・ワイズの佳作ですね。
滝和也

滝和也