Mikiyoshi1986

髪結いの亭主のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

髪結いの亭主(1990年製作の映画)
4.4
追悼ジャン・ロシュフォール

ド・ブロカ作品ではベルモンドと共にコミカルな演技を披露し、
ルコント作品では哀愁漂う初老を味わい深く演じたフランスのベテラン俳優ジャン・ロシュフォール。享年87歳。
慎んでお悔やみを申しあげます。

中1の時、加入したての映画チャンネルで観まくった作品の中でも、いまだに印象的なのが「おっぱいとお月さま」そして「髪結いの亭主」でした。
絶妙なエロさが思春期の私には良い刺激だったことも大いにあるんですが、
どちらも少年が大人の女性に惹かれ性への目覚めを感じる視点がとにかくオシャレでエロスで親近感で、
ハリウッドにはないヨーロッパ映画特有のリズムが大変心地好かった思い出があります。

少年期の女性崇拝を引きずり、そのまま大人になったアントワーヌをロシュフォールが好演。
床屋の女性への憧れから、髪結いの亭主となる夢を実現させた男のモノローグで愛の物語は綴られます。

アラビアンポップスに合わせてデタラメなダンスを披露するロシュフォールが可愛いし、
店内の床のタイルやスタジオに組んだという壮大な街のセットも抜群に素敵。
この異国情緒漂う閑静な雰囲気が大人のお伽噺を更に助長させ、半ば隔絶化した床屋で二人は「永遠」の愛を求め合うのです。

愛に溢れた日々を保ち、それを幸福のままにする方法。
妻マチルドが出した突飛な答えには、子供を持ったが為に夫婦不和に陥った客や「永遠」の脆さを語る客、老いの醜さとただ死期を待つ元オーナーからの影響も少なからず起因しているのかも知れません。

改めて観ると夕立と落雷には未来の不穏と性の衝動というメタファが含まれ、あのセックスによってマチルドは妊娠を確信してしまったようにもとれたり。
かつてアントワーヌ少年が想いを寄せ、愛人がいたという髪結いの女シェーファーの最期にも今回あらゆる解釈の余地が生まれました。

ともかく通常ならば悲しいエンディングも、フランス映画だと不思議な余韻によって物凄い感動の波が押し寄せてくるんですよね。
この時代だと「ベティ・ブルー」とか「グラン・ブルー」とか「トト・ザ・ヒーロー」とも似た感覚を覚えます。

そしてルコント監督にはそろそろ新作を発表してほしい今日この頃。
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986