マーティン・スコセッシが再びデニーロと組み、夢に固執した偏向的なコメディアン志望の男を描いた作品。
ジョーカーとの関連性は前々から囁かれているが、本作は個人的により共感する人も多いと思う。アメリカンドリームと呼ばれるようなものが戦争等で廃れていく70~80年代前半の時代をそのまま皮肉ったような内容に心酔した人もいるのではないだろうか。ゴールデンエイジを代表するシナトラの「Fly me to the moon」が街の狂騒にかき消されつつ流れているのも比喩。親と暮らし、少年期に虐められた過去を持つ彼が、「嫌なことは笑い飛ばすんだ」と語っていることからも、事実を忘却しようとし、自室に貼り付けた"夢"にすがりつこうとしているようにも見える。もしかしたら、後半で語った過去は彼がした事を正当化する為の虚言なのかもしれないが。 デニーロとジェリールイスという各界を代表するスターの演技は秀逸で、所々にアドリブも散りばめられているというから尚更。カメラワークも独特で、これまでのドリーショットから一転したりと狂気に拍車をかけるかのよう。
ラストが現実かどうかに関しては、自分は幻想なのでは、と思う。紙に向かい喋る間、彼の考えたことが可視化したのがそれではないだろうか。
デニーロでなければこのような名作にならなかったと言っても過言では無いと思う
