荒野の狼

源氏物語 浮舟の荒野の狼のレビュー・感想・評価

源氏物語 浮舟(1957年製作の映画)
4.0
1957年公開のカラー118分の作品。薫の長谷川一夫は1908年生まれなので49歳、浮舟の山本富士子と匂宮の市川雷蔵は共に1931年生まれなので、26歳。この三人が主役といってよい作品だが、ナイーブな役の長谷川は少し老けすぎ(平安メイクがもっともしっくりきているが)。山本は若々しさがなく、田舎育ちの無垢な娘を殊更に演じようとしてうまくいっていない。

これに対し、市川は色気のある危険なプレイボーイを演じ切り、見事な悪役振り。長谷川と出し抜いて、山本を満月の夜に犯そうと、牛車に乗って宇治に向かうシーンなどは恐怖映画に近い不気味さ。行路の草花を牛車が踏みにじりながら進むシーンは象徴的。源氏物語の原作を北条秀司が改変したもので、原作とは異なる展開もあり、映画の予告では浮舟が愛欲に溺れるような宣伝の仕方であるが、実際の映画では市川が、その傍若無人な性行動が周囲にいる複数の男女の人生を壊していく内容。

薫と浮舟に思い入れが強いと、本作は見るのが辛い映画となるが、市川の悪のピカレスク映画という見方をすれば、市川の暴走を傍観するものや、加担していく複数の腹に一物を持つ登場人物には個性的で印象の強い見せ場が用意されている。たとえば、匂宮の正妻に乙羽信子、浮舟の侍従に中村玉緒だが、二人とも、もう少し出演場面が長く、もっと、人間のいやらしさが出せたのにと思うと惜しい。
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