LEONkei

何が彼女をそうさせたかのLEONkeiのレビュー・感想・評価

何が彼女をそうさせたか(1930年製作の映画)
3.7
父から1通の手紙を預かり遠く離れた伯父の家へ向かう少女〝すみ子〟は、それが負のスパイラルの始まりで壮絶な人生を歩む事になる無声映画。

帝国キネマ演芸製作のこの映画は残念ながら撮影所の火災によりフィルムが焼失したと思われていたが、モスクワで奇跡的に発見され冒頭のクレジットとラストシーンが欠損しているが作品としては十分成立している。

ラストシーンが欠損していては…と少し残念な気持ちで観賞したが、それを補う無声映画特有の字幕が上手に補っている。

むしろラストシーンの字幕は映像が無い分、詩的で〝すみ子〟の感情の激しさを想像させる迫力ある字幕だったのではないか。

〝すみ子〟は貧しさ故に学業すらまともに受けられず、学校へ行きたい一心で伯父を頼るが悲惨な人生が待っていた。

頼った伯父には金と引き換えに曲芸団に売られ更に厳しく残酷な生活環境に耐えながらも逃げ出すが、詐欺師に加担させられ逮捕。

警察には『お前は猿なんだよっ』と罵られ、老人と浮浪者の施設に収容されたり…県議員の女中になるも我が儘な議員令嬢に生活格差を知らしめられ、厳しい現実と理不尽な仕打ちに施設に逆戻り。

さらに…と次々と不幸に苛まれる〝すみ子〟の痛々しい姿は、昭和初期の貧しい日本社会と重なり生きる希望とは何なのか考えさせられる。

丸尾末広の漫画『少女椿』の元になったとかならないとか一部で言われているが、エログロ要素はまったくないが貧しい少女が壮絶な人生を歩む姿には共通点がある。

この映画の製作された当時は左翼的思想映画が流行し、〈傾向映画〉というジャンルが存在していた。
1930年前後から不景気により失業者が増え軍事化する国家と社会への批判を左翼的商業映画にし、資本主義への不満を貧しい人たちが絶賛したらしい。

今、観れば単純に貧しく可哀想な少女の話しってことになるが、現代でも形は違えど何が彼女(彼)をそうさせたか…そう思う事は多々あることです。

しかし、このタイトル『何が彼女をそうさせたか』は中々いい〜観た後に改めてタイトルの強烈さと重さが伝わます..★,
LEONkei

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