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イップ・マン 序章のbutasuのレビュー・感想・評価

イップ・マン 序章(2008年製作の映画)
1.5
武術シーンは本当に素晴らしい。その反面、ストーリーにずっとイライラさせられっぱなしだった。ただまぁアクション映画なので、ストーリーなど気にせず楽しめばよいのだろうが。

とにかく主人公がいけすかない金持ちなのがどうにも感情移入しづらい。前半は豪邸で働きもせず悠々自適の暮らしを送っており、あれだけの武術の腕前がありながら社会貢献する気もゼロ。まぁでもそれは一つの生き方なので好きにすれば良いのだが、後半に戦争が始まってからも彼はしばらくこの生き方を変えようとしない。「一家は困窮した」というようなナレーションが入るが、こいつは金目の物を質に入れ続けるだけで、それが尽きるまで一向に働こうとしないのだ。そして妻がやつれてさすがに働かざるを得なくなると、工場を共同経営しようという昔ながらの友人の誘いを断って、効率の悪い肉体労働に参加するようになる。勝てば米が貰えるという武術の試合にも頑なに参加しようとしないし、結局参加して米が貰えるのにそれを放置して家に帰る。誇り高いのも結構だが、戦時中家族を養うためにもっと大切にしなければいけないことがあると思うよ。まぁやつれたという設定の妻もいつみても化粧バッチリだし、どうみてもあの家族は困窮しているように見えないから、実のところそんなに困ってなかっただけかもしれないけどな。

敵側である日本の扱いも腑に落ちない。どうにも中国によるプロパガンダの匂いを全編にプンプン感じてしまってダメだった。実際には主人公は特に日本軍と戦ったりせずに普通に逃亡したらしいよ。ラストに8/15の説明が入り、「中国は日本に勝利した」とナレーションが入ったときには思わず乾いた笑いが出た。「実話を元にしている」って便利な表現だよなぁ。9割創作だって、元にしていることには変わりないわけだから。

主人公は池内博之演じる三浦をひどく憎むようになるが、観ている限りこの三浦はそれほど悪いことをしているようには思えない。試合で勝ったやつには約束通りきっちり米を与えているし、中国人を不必要に殺したり暴力を奮ったりは全くしていない。クズなのは部下で、三浦は何一つ悪くない。なのに主人公は「こいつが諸悪の根源である」的なトーンで最後の試合に赴く。正直、観ていて全く乗れなかった。それよりもしっかりと誤解を解きお互いを理解し、武人同士尊敬し合った上で戦ってほしかった。その方がよっぽど誇り高い武術の精神に則った試合ができたと思うのに。

最初のうちは武術シーンが楽しくてしょうがなかったのに、話が進むにつれてイライラが勝ってしまい集中できなくなってしまった。残念。
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