S

ヘヴンのSのネタバレレビュー・内容・結末

ヘヴン(2002年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

2021/12/04 FOX(録画)

ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキと脚本家クシシュトフ・ピエシェビッチによる「天国」「地獄」「煉獄」を題材にした三部作。1996年に急死したキェシロフキの遺稿脚本である。唯一完成していた「天国」篇である本作はドイツ人監督トム・ティクヴァの手によって映画として実現。
因みに「地獄」篇はダニス・タノヴィッチ監督で『美しき運命の傷痕』として2005年に映画化。

誤爆テロで犯罪者となってしまった女教師と、彼女に運命の愛を感じた若い刑務官の逃避行を描く。

亡き夫の復讐のために、爆弾を仕掛ける緊張感に引き込まれる。ゴミ箱の中に隠すように仕掛けた爆弾は移動され、エレベーター内で全く罪のない家族と掃除婦の命を奪ってしまいテロの犯罪者として捕まったフィリッパというイタリア女性をブランシェットが熱演。
現在より若い頃とはいえブランシェットに貫禄があり、キェシロフスキのイメージとしてはもう少し儚げな女優のほうが似合った気がするが、実際に地毛のセミロングをバリカンで剃り上げるシーンには女優魂を感じた。
刑務官を演じたジョヴァンニ・リビジも同じく坊主に頭を丸め、二人が身を寄せ合いながら丘を駆け抜けて木の下で愛を交す場面のシルエットが心に残っている。

冷たい社会での心を刺すような愛の物語は、どこから見ても疑いようのないキェシロフキの息吹が感じられる。
演出に牛乳瓶を用いたところや、静かで淡々としたピアノの哀しげなメロディ、キェシロフキの耽美さこそ無いものの、亡き巨匠の思いに寄り添う形で映像化してくれたティクヴァ監督には感謝しかない。

「天国」というタイトルからも、どうなっていくのか最後まで目が離せないラスト。俯瞰ショットから切り替わり、空高く吸い込まれていくヘリコプター。映画の醍醐味である映像アクションが素晴らしい。二人の心中とも希望とも受け取れる描き方が良かった。

2021-334
S

S