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好男好女のericoのレビュー・感想・評価

好男好女(1995年製作の映画)
3.5
ホウ・シャオシェンのフィルモグラフィにおいて、童年往時、恋恋風塵といった私小説的な色合いの濃い初期作では、「台湾」はあくまで美しき背景だった。これを如何にして自らの映画の題材として取り込んでいくか、そのプロセスの途上にあったのがこの「好男好女」だったのではないかと思う。
歴史を語るとき、なぜ「今」その行為が必要なのか?という問いが常に生じる。この映画の構造(白色テロの時代を生きた女性を、現代の女性が演じる)は、その問いに答えるために用意されたものだったのだろう。ふたりの女性は、時代を超えて同じ悲しみを抱え、そこに共感がうまれる。歴史は決して遠い対岸の物語ではなく、自分の過去の日記とおなじくらいに、生々しい傷痕の、そして誰かへの募る愛情の集積として立ち現れてくる。
彼女らの共通項があまりに直線的であったり、共感がもたらす化学反応の描写が乏しかったり、という点にはすこしものたりなさは残るものの、ふとリャンジンが心の均衡を崩し、自分の抱える荷物の重さに涙する電話のシーンは胸に迫る。彼女の涙を通してわたしたちは、ジャン・ピーユの慟哭の意味を切実に感じることが出来るのかもしれない。