荒野の狼

戦うパンチョビラ/戦うパンチョ・ビラの荒野の狼のレビュー・感想・評価

4.0
『戦うパンチョビラ』(原題、Villa Rides)は、1968年のアメリカの映画。パンチョ・ビラ(ビージャ、ビリャ、1877-1923)はメキシコ革命(1910-1917年)で活躍した歴史上の人物だが、同革命を映画化したもので日本で見られるものは少ないという点で貴重。革命はメキシコ大統領の座にあったポルフィリオ・ディアスの反対運動として始まったが、本作は、ディアス政権は既に倒されており、フランシスコ・マデロが大統領となった1911年以後の話。

終盤は、1913年にマデロ大統領側の主要な将軍であるビクトリアーノ・ウエルタが関与する「悲劇の十日間」の前後の時期が描かれるが、この時に、ウエルタのクーデターが、在メキシコのアメリカ合衆国大使であるヘンリー・レーン・ウィルソン (Henry Lane Wilson) の助け(マデロ大統領に対する犯罪を巧妙に組織した)によるものであることは映画では語られない。ちなみに、米国がメキシコを長年、植民地同様のコントロールをしていたことについては、E・ガレアアーノ「収奪された大地(藤原書店)」にコンパクトにまとめられている(p219-227)。この中で、パンチョビラ以上にメキシコの革命の英雄として紹介されているエミリアーノ・サパータは映画には登場しない。

メキシコを含むラテンアメリカ諸国は、ディアスのような独裁者やウエルタのような軍人によるクーデターにより苦しんできたのは、米国が南米を実質上の植民地としておくのに都合のよい独裁者・軍人をサポートしてきたためという歴史がある。本作では、冒頭、アメリカ人ロバート・ミッチャムが反乱軍に武器を売るところから映画ははじまるが、ミッチャムが誰の手引きで、反乱軍に武器を売ることになったのかがわからない(米国大使のウィルソンとミッチャムが関わっていたと考えるのが自然)。ミッチャムは、本作では弱者を助けるヒーローのような役所であるが、実際は、武器の供与で間接的にクーデターをサポートし、出会ってすぐに土地の無垢な女性と肉体関係を結ぶような人物である(本作では女性の描かれ方にリスペクトがなく、この女性は映画の半分くらいまでは会話能力もない肉体の魅力だけの人物である)。

パンチョビラ役のユル・ブリンナーは、ひと癖あり欠点もあるパンチョビラを好演。チャールズ。ブロンソンは、パンチョビラの片腕でロドルフォ・フィエロ Rodolfo Fierro (1885 –1915)役。フィエロ は歴史上、捕虜の死刑執行人で冷徹な人物であり、本作でも実際にフィエロ が行ったいくつかの殺人が再現されるのだが、不思議にブロンソンが演じると、憎めない役柄になってしまう(本来残酷な殺人シーンもユーモアのある出来になっている)。ちなみに、本作では1968年にブロンソンと結婚したジル・アイルランドがミッチャムの食事の相手として登場するが、その時に食事の邪魔をするのがブロンソンとブリンナーであり、このシーンで、アイルランドが彼らを差別的な目で見ていることも面白い。

アメリカ映画であるので、メキシコ革命前後の混乱も結局は、アメリカの長年にわたる植民地的支配が原因であることは描かれていない。また、歴史的に時系列が正しくなかったりする部分もあるが、メキシコ革命に興味を持つための入門編の映画としてはおススメ。
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