ぴろぴろ

アンダーグラウンドのぴろぴろのレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
4.5


学生時代、語学学校に行った時、隣の席がユーゴスラビア人の男子学生だった。 目が会うと、いつも必ずウィンクするから、若かった私は恥ずかしいし慣れないし、授業どころじゃなかったっけ。 こんな事ふつう日本人はしないでしょ。 飛行機で隣の席になった男性がユーゴスラビア人で大学教授だと言っていた。 男子学生からは1度手紙が来たけど、人懐っこいあの時の彼らは今、どうしているのだろう。

「昔、あるところに国があった」
終始、独特なフレーズのブラス演奏と共に、悲惨な歴史と祖国を失った人々の喜怒哀楽を圧倒的なテンポとハイテンションで観せる怒涛の3時間弱。 悲劇なのか、コメディなのか。 その両方なのか。 ブラックな群像劇でもある。
ホリー・ハンターをもっと綺麗に色っぽくした感じのヒロイン、ナタリアがDVD特典映像のインタビューで
「観た人がこう思ってくれたら嬉しい。
これは悲劇なのか。 喜劇なのか」
あらぁ私、すっかり思惑通りの感想。
他のどの映画とも似ていない、独特な映画らしい「ザ・映画」だった。 印象的なシークエンスが幾つもあった。 結婚式で花嫁が空中を泳ぐようにして席に着くシーンは絵画のようだったし、火だるまになった車椅子がクルクル回り続けるシーンはトラウマになる。 そしてラスト。 「許そう。でも忘れないぞ」 どちらかが許すと言わなきゃ永遠に終われない。 許すと忘れるは別モノだもの。 だけど、今はこの宴に酔おう。 喜びも憎しみも、祖国には全てが在る。 激動のユーゴスラビア。 あの演奏が頭から離れない。 最終章の終幕では、例の音楽隊の金管楽器がファンファーレの様にも聞こえた。

「昔、あるところに国があった」
ぶつけようのない人間のエネルギーに引きずり込まれる、力のある映画だった。
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