このレビューはネタバレを含みます
国がなくなってしまう、ということを描くために、こんなにも映画という仕組みを最大限に発揮した作品はないのではないかと思った。観終わってしばらく震えている。
映画というフィクションがやがて現実に接続する、そう書きながら、映画というフィクションの中での現実を塗り替えたタランティーノや、フィクションを直接現実に接続したイーストウッドのことを思い出す。それらも映画という装置を十分に使った表現としてすばらしいものだけれど、この『アンダーグラウンド』は、フィクションと現実が入れ子のように重なることでねじれを生み、それが止まることのない回転を生んでしまうような映画だと思う。
国がなくなってしまうこと、その想像もつかないような悲しみを最大限のドラマとユーモア、そしてサウンドトラックで彩っていく。ラストシーン、井戸の中で登場人物たちとブラスバンドが無音の再会を果たし、ありえたかもしれない結婚式で酒を酌み交わす。その美しさが現実にも存在しえなかったという事実を感じると、こんなにも胸が苦しくなるシーンはない。この物語に終わりはない、という一文に愕然としてしまった。