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アンダーグラウンドのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
5.0
戦時下にでさえ、悲惨な自国の内戦を風刺し、狂気を笑い飛ばせるヨーロッパの文化の成熟度に感動したというのが一番の感想です。

 それと、主人公がルー大芝と高田順次合わせたようなアップテンポのハイなハチャメチャさで、そのイカレタ、クレイジーさが戦争の狂気を茶化しながらもまんま表しているのだと感じました。チャップリンの映画から洗練さをとってしまい、吉本総出演したような感じ。話がばかばかしいのではなく、人間の愚かさが悲しくなってきます。

 舞台は今は無きユーゴスラビア。ナチス占領下のユーゴから始まります。その後、ナチスの目を欺く秘密結社として地下生活を余儀なくされ、騙され、地下生活をするはめになり、地下にいる人々はナチスと闘うために(地上の現実を知らされないまま)戦闘の準備をし続けている・・・

 タイトルのアンダーグラウンドは地下組織そのものの意味ですが、本当に地下に生活させてしまったというところがブラックなユーモアです。でも、ブラック以上に、地面の下には昔一つの国があったという意味を感じました。ブラックというと、何か、対岸から皮肉るような、火の粉が飛ばないところでの批判精神に思えますが、ここにあるブラックは、切実な叫びのようであり、最後で泣きました。
 国が崩壊していく、一つのまとまりがなくなっていく、それぞれが主張しあって再び戦火となる愚かさと人の幸福の普遍的な姿がこの長編には絵巻物語のように描かれていました。

 映画の中で貫かれているのは「クレイジー」なこと。それが「狂気」と違うのは、憎しみではなく、同胞への愛なのかもしれません。主人公二人がお互いに「許してやる。でも忘れない」と言い合っているのは、まさに同胞であるからこその距離感なのかもしれないと、島国ニッポンの私は脳天気に思いました。
今はばらばらに6カ国くらいに分かれたユーゴスラビアですが、小さな国は世田谷区よりも人口が少ないのです。大きなところでは東京都23区の人口や大阪府位の人口。世田谷人と大阪人と名古屋人と23区が力を結集して闘っているのを考えると・・・。

 また、ドナウ川への憧憬が出て来ますが、ヨーロッパを横断している長い川。多くの国を流れながら平和と恵みをどの国にも与えてきた包容力や優しさを感じました。島国日本ではわからない感覚です。

 映画の演出として、けたたましいブラスバンドの音楽(ユーゴスラビアの民族音楽)がずっとハチャメチャに鳴り続け、戦火でもお祝い事を見つけてはお祝いし続けているのです。耳から離れません。

 途中、CGで本当の戦争の記録映画(悲惨な破壊的な風景など)に登場人物を入れこんだりと、現代だからこそできる演出がありました。
 あ、この映画は現代ではなく、ユーゴスラビア内戦下の1995年に作られ、デジタルリマスターでそういう演出をしています。CGではなくそもそも戦時下にここまで茶化すとはすごいです。

 日本映画では悲壮なままに描いた戦争映画以外ないのではないかと、日本と比較しながら観ていました。日本はまだ戦後になっていないのかなって。自由な表現ってできないのかなって。狂気にしたら憎しみが残る気がするのです。誰もがばかばかしいことをしてしまったクレイジーさとして笑ってやることは、他国の手前できないのでしょうかね。娯楽にするなと叱られるのかしら。人間って自分って情けない愚かな存在だって等身大で感じることの方が教育効果にもなる気がします。

アンダーグランドのそのまたアンダーには何があるか、地下の地下、つまり大地の大本には何があるのか、これがテーマなのかも。おそらくドナウ川。あるいは命の水を讃えているのではないかと思った次第。大地は母であり、水は命、川は悠久の歴史や時間の流れ、大本から分かれても最初は一つだったということなのかな。
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