三四郎

ブルグ劇場の三四郎のレビュー・感想・評価

ブルグ劇場(1937年製作の映画)
4.8
鑑賞後、あゝ有意義な時間を過ごした、観てよかった、そう思わせてくれる粋なウィーンらしい作品。
ヴィリー・フォルスト監督好きだなぁ!洗練されていて格調高い、なんとも品のいい作品を創る監督だ。生粋の維納っ子だからだろう。

男爵夫人の見捨てかた…一人勝手に若者に恋をし、威厳を保ちさらりと捨てる。これぞ貴族。青い血の方々は、平気で人をモノのように扱い、すましている。
悲劇で終わらず、それぞれにそれぞれの美しい終幕をつけているところが良い!

名誉あるブルク劇場の専属大俳優。彼はその名声をものにするために恋もせず、社交界へも行かず、真面目にただひたすら実直に日々舞台と家の往復を繰り返し、晴れた日に街を散歩し、その気持ちの良さ心地の良さに心揺さぶられる。全ては舞台のために、そして常に役者として生きているような人物だ。そんな彼がある日教会で若き純真な娘に出会い一目惚れ。自分の歳も忘れ彼女に夢中になる。人生最初で最後の崇高なる恋愛だ。

自殺しようとした若き青年に「君の一世一代の大芝居だな!私はキミと替わりたい!」と失恋の哀しみを爆発させる。もちろん青年は何を言っているのか理解できない。
舞台後、鏡に映る自分を見て彼は哀れで笑ったのだ…「俺が、この年老いた俺が、あんな若い娘に恋するなんて…娘が俺を受け入れてくれるとでも思ったのか愚か者よ!いつも鏡で見てた俺の顔じゃないか、なぜ気づかない!」
彼はそう思ったに違いない。実に哀れだ。しかし、いくら勘違いしたとはいえ、何歳になっても恋愛は甘酸っぱいものがあるようだ。同時に苦い薬もあるが…。

レニの名が書かれ浄められた首飾り…この首飾りが青年を救い、老人をもある意味救ったのである。老人は、青年は若いのだから「自殺などするわけがない」と思っていた。しかし夜、舞台の上から首飾りが落ちてきて青年の絶望を知り、青年の命を救い説教し立ち直らせたのだ。老人は後悔せずにすんだのである。
説教し終わった後、こらえきれず青年をひっぱたいて去ってゆく。老人は門番に、青年を待ち続け居眠りしている娘とそれに寄り添う青年、この若い二人の邪魔をしてはならぬと言い残し家へ帰って行く。
ブルク劇場の大俳優としてのミッテラーも『ブルグ劇場』のヴェルナー・クラウスも最高の名演技だ!
青年は熟睡している彼女に「本当は君のこといつも思っていたんだよ もう絶対離さないからね」といった甘い言葉を囁く。
冒頭と終幕が同じ題目、そしてブルク劇場をスクリーンいっぱいに映している。実に気持ちがいい!失恋の痛手から立ち直り、ミッテラーは今日も舞台へ立ち喝采を浴びるのだ!
三四郎

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