うえ

それでもボクはやってないのうえのレビュー・感想・評価

それでもボクはやってない(2007年製作の映画)
4.4
昔に一度観た記憶があるが全くと言っていいほど覚えていなかったので再鑑賞。


痴漢冤罪を題材とした映画。
やってないことをやってないと主張するのは至極当然であるはず。しかし、逮捕・取調べ・拘留・起訴の過程で誰も耳を貸してくれない。たとえ無実であっても一度痴漢の容疑者となってしまった人はこうなってしまうという日本の刑事裁判の問題点が描かれている。


主人公のフリーター(加瀬亮)は、面接に行く道中、満員電車から降りた途端に女子中学生に手首をつかまれる。駅員室に連れて行かれた彼は、覚えのない痴漢を断固否定。すると警察がやってきて留置され、そのまま裁判を闘うことになる。

主人公に突如として降りかかる災難は男なら誰にでも起こり得ること。そして、その後に彼が取る幾多の行動も誰もがそうするであろう共感できるものばかり。
いくら日本の裁判に問題があるとはいえ、やってもいない事で罰を受けるわけがないと考えるのも自然。しかし、そうした主人公や僕たち一般人の考えがいかに甘いものか、この映画は嫌という程教えてくれる。
別の事件では実際に痴漢をした上でその罪を認めた男が数時間で釈放されている。しかし、無実が故に罪を否定した主人公は何十日も警察に締め上げ続けられる。そして、社会的に抹殺されるのは後者。面会した当番弁護士が、やってもいない罪を認めたほうが得と語るシーンで、主人公と同時に僕も大きなショックを受けた。

この映画は143分と長く話自体も淡々と進む。スピード感や大きな盛り上がりがあまりない映画は途中でだらけてしまうことも多い。しかし、ストーリーが淡々と進むが故にリアリティを感じられることもある。この作品はまさしくそれだった。
内容はもちろん、緻密でリアリティある演出によって「痴漢冤罪は怖い」ただ漠然とそう思っていた僕は強い衝撃を受けた。
劇中で主人公は「裁判は真実を明らかにするものではない。証拠を集めて無罪か有罪かをとりあえず決定するものだ。」と言っていた。まさにその通りだと思ったし、それに加えて「法律は僕らを守ってくれるもの」かどうかも怪しいとさえ思った。「法律は僕らを規制するもの」でしかないのかもしれない。この範囲内で生きなさいと。
この映画のような痴漢冤罪が法律によって引き起こされているのだとしたら、もう何もかもわからなくなってしまいそう。
結局、信じられるものは自分の道徳心だけで、「法律を守る人間=正しい人間」ではないとも思った。

裁判員裁判制度が導入された今、この映画のような状況は当時と比べると少しは緩和されているのかもしれないが、実際に自分や知人に起こったらと考えると怖い。
いや、身の回りでなくとも冤罪なんて起こってはいけないと言いたい。この映画のおかげで、そんなことを考えられるようになったかもしれない。

本当にその人が罪を犯したかどうか。
グレーゾーンにいる被疑者をどう裁くのか。
人一人の人生を左右してしまうようなこれらの判断を正しく行なうことは、途方もなく難しい。時に悲劇を生んでしまう。だからこそ、このような映画が作られるのだろう。

結婚をして家庭を持っているわけでもなければ、まだ社会にも出ていない、ただの学生の僕ですらいろんなことを考えさせられました。
そういう意味でも、この映画は一人でも多くの人に観てほしい。そして、ほんの少しでも冤罪について考えてほしい。
特に男は全員、明日は我が身と思って観たほうがいい。
そんな風に思います。

十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ
うえ

うえ