父親から絶対的な支配を受けてきたイゴールが、父の命令に背き自分の意思で歩き出す過程を描いた作品です。
作品の舞台となるのは、父親が経営する不法滞在者用のアパート。父親のロジェは様々な人種の不法入国を手助けし、住居などその他諸々の世話役をして生計をたてています。
息子のイゴールは修理工見習いをしながら、父親の助手として忠実にサポートしてますが、その関係性は親子というよりも社長と従業員のようにも見えます。
父親は、恐らく自分の親から受け継いだ世渡りの術を、そのままイゴールに
継承しているのだろうなぁと感じました。
絶対的な支配と服従で、父を愛しているけれど、恐れで萎縮しているイゴールの姿が痛ましいです。
ある日、建物の足場から落ちたアフリカ国籍のアミドゥから、妻と子供を託されることにより、イゴールの中にある決意が生まれます。
子供というものは、自分の人生のどこかのタイミングで、親の支配下から自立しなければならないんじゃないかと考えています。
経済的な自立は可能でも、精神的な自立となるとなかなか難しい。私自身、父親に対して面と向かい反対意見を言えるようになったのは、まだ最近のことです。それまでは、嵐が過ぎ去るのを待ち、当たらず触らずの姿勢でいました。
初めて父親に対して自分の思いを吐露したときには、罪悪感と怖さで震え上がりました。(^_^;)
そのような個人的な経験を踏まえてイゴールを見つめるとき、わたしの中に彼に対する尊敬の思いが生まれます。
15才の少年にとって、父親の命に逆らい、自分の決意を貫こうとするのは並大抵のことではありません。
彼は父親とアシタに対して、種類は異なるものの、やはり罪悪感と恐怖を感じていました。
怖さしかない中で、彼を突き動かしたのは、彼の中でハッキリと自覚できた良心と責任だったのだと思います。
彼を見るとき、どんなに孤独な状況でも自分自身の中に宿る灯火を頼りに前進していくことは出来るのだなと感じました。