菩薩

この素晴らしき世界の菩薩のレビュー・感想・評価

この素晴らしき世界(2000年製作の映画)
3.8
ナチス支配下のチェコが舞台、長年子宝に恵まれなかった夫婦が収容所から逃亡して来たユダヤ人青年を自宅の隠し部屋に匿う事になるお話。この家にはナチス信奉者のおっさんが入り浸っており、しかも隙あらば嫁さんにちょっかい出したろうと機会を伺っている。旦那はかつて仕事中に大怪我を負い軽度の障害を持っており、また周囲の目を欺く為にも嫌々ながらもナチ事務所での職を得る。夫婦に子供が出来ないのは嫁氏の問題かと思っていたが、検査をしたところ旦那の種無しが判明、これが終盤の物語を加速させていく大きな要因となってくる。戦時下の超非常時を生き抜く為に市井の民達が見せる健気な姿勢、疑心暗鬼が募り相互監視に密告、人を信じる事それ自体が不可能になる中でも、この作品が訴える事は「恩を仇で返す事勿かれ」との当然の人の道。ずっと単なるセクハラ・パワハラ野郎でやって来たナチおっさんも、終盤に連れ徐々に意味合いを変えてくる。旦那氏の名前はヨゼフ、嫁氏がマリエ、匿われるユダヤ人青年がダヴィッドと来れば、この話の裏に聖書の存在があるのは明白だが(と言うか出てくる)、どうやら実話を基にした話らしい(本当か…?)。途中とっ散らかっちゃってどう収集つけるか不安であったが、終わり良ければ全て良しのスッキリとした結末、赤児を前に互いに微笑み合うおっさん共の笑顔が眩しい。争いの後の世界に生み落とされた新たな命、その存在は荒廃した街と人々の心を明るく照らす「復活」の象徴となるか、もしかしたら彼の名はイエス…だったりして。
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