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4匹の蝿の一人旅のレビュー・感想・評価

4匹の蝿(1971年製作の映画)
4.0
ダリオ・アルジェント監督作。

仮面を被った謎の人物に命を狙われるミュージシャンの青年・ロベルトの姿を描いたミステリーホラー。
アルジェントらしい色彩感覚や血みどろの残酷描写は比較的控えめで、ミステリアスな推理劇を描くことに重きが置かれている。ミステリーとしてはかなり見応えのある内容になっている。犯人と思しき怪しい人物が複数登場してくれたり、ロベルトの周辺の人間が次々に殺されたり、意味深に映し出される悪夢の映像といった、謎が謎を呼ぶ展開に最後まで目が離せない。タイトルの『4匹の蝿』の真意を、現代科学の応用(ちょっと非現実的?)と圧巻の映像センスで見せつけたクライマックスにも驚かされる。
アルジェントの作品群を大別すると『サスペリア』のように監督独自の世界観を全面に出した作品と、『歓びの毒牙』のように推理物としての知的面白味を追求した作品があるが、本作は明らかに後者のタイプ。個人的にアルジェント作品の中ではデビュー作の『歓びの毒牙』がずば抜けて好きなので、その系統に属する本作もやはり好みの内容だった。
謎だらけの作品ではあるが、決して観客を置き去りにしていない点に好感が持てる。登場人物の口からその場の状況説明や相関関係がしっかりなされる親切設計なので、錯綜する情報を鑑賞者が頭の中できちんと整理してから推理劇に臨めるように考慮されている。そして、鑑賞者の頭の中を整理させた上で予想を裏切る結末で綺麗に締める。犯行の動機づけはやや強引な気もしたが、それでも鑑賞者の“まさか!?”を引き出す意外な真実に驚愕するのだ。
ミステリーとして良く出来た作品だが、ホラーとして観ても見どころが多い。死亡フラグをほったらかしにはせず、最大出力の恐怖演出でしっかり回収する。その描写も素晴らしい。死ぬ運命にある人間が狭い迷路でじわりじわりと追い詰められていくシーンの絶望感や、タンスの中で息を殺して必死に身を隠す人間の恐怖。そして、階段を滑り落ちていく人間の頭部を上方から捉えた演出は圧巻の不気味さを生んでいる。推理劇的楽しみだけでなく、恐怖演出の面でもアルジェントの手腕が存分に発揮されている作品だ。
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