EmiDebu

ラブ・アクチュアリーのEmiDebuのレビュー・感想・評価

ラブ・アクチュアリー(2003年製作の映画)
4.5
先日、大学時代の近しい友人が結婚をした。
結婚とは?そのテーマについて結婚式の日まであまり深く考えたことはなかったように思う。それは自分のセクシャリティがそうさせてるわけじゃなくて、自分はそこまで深く「人の人生を背負う」「誰かと共に生きてゆく」ということについて到底考えも至らなかったからだと思う。自分には不可能なのだと。
きっと自分は、フラフラと相手を変え、完全に満たされるようなこともなく時に肉欲だけで相手を追い求め、それを繰り返し年老いていくものだと思っていたのだ。

ただ、多くの人にとって結婚は人生において特別なイベントだと思うし、仲が良かった周りの連中ももちろんお祝いムード一色になり、俺たちも友人のため何かしようと集まってラジオを撮ってみたり、思い出の写真を集めてコラージュを作ったり、心温まるスピーチを用意した友人もいた。結婚式はお昼からだというのにはやる気持ちを抑えきれずに朝早くから集まって喫茶店で時間を潰したりして。それくらいしても足りぬほど俺たちにとっても特別なイベントだったことは間違いない。

ただ、実際にその友人の結婚式を迎えると、なんとも不思議な感覚になった。
なんと言えばいいか、時々映画を観ていると人々の営みや、世界の美しさに気づかされて圧倒されることがある。それに似た感覚だったかもしれない。
とある夫婦の元に子供が生まれ、その子が成長しまた別の家庭を築く。きっとその家庭にはまたこどもが生まれ、いつかは結婚をするかもしれない。ちょっと詩的すぎる表現かもしれないけど、その人類の「環」の美しさについて思いを巡らし、仮に自分が親だったら旅立つ子を思い喜ぶだろうけど少し寂しい気もするのかななんて考えてみたり。人の心は一色じゃないからきっとこれといったものはないんだろうけどね。リップサービスや美辞麗句の類ではなく、素晴らしい結婚式だったと思う。

そんな結婚式に招かれてからというものの、なんというかハッピーな、そしてロマンティックな映画を観たいと思ってラブアクチュアリーに手を出した。もちろん名前やなんとなくの設定は知っているけど観たことはない。ラブロマンスを避けてるわけじゃないが、気づくとみてるのは悲哀に満ちたストーリーかホラーばかりなのだ。ただ、ラブロマンスの映画に関して「結局結ばれるんでしょ?」という穿った観点はいまだに持っている。

これはクリスマスを前にロンドンで繰り広げられるロマンスをオムニバス形式に映し出す映画だ。Love actuallyというタイトルにはその後にLove actually (is all around)という言葉が続く。「人々は『人生とは憎悪と欲ばかりだ』と言うが、実際のところ愛はそこら中に溢れているじゃないか」といったところだ。「9.11の日に犠牲者がかけた電話は愛のメッセージだった」というナレーションがシリアスに、そして確実にその言葉に信憑性を持たせる。例えばテロに巻き込まれ、自分の死が決定づけられた時、憎い相手に電話をかけて「お前を呪ってやる!」なんて言わないわけだから。

脚本の妙で、やたらと台詞に「actually」が登場するこの作品。
実際に(actually)何組のカップルが登場したか分からないがどれも心温まるものだった。
時代を彩ったスター達の共演だけでも視聴者としてはワクワクすると思うが、中身も実際に(actually)人々の営みを美しさを描き出していた。そうだ!これなんだ、俺が結婚式で見たものは!!

きっとかつての自分だったらこの映画を観て「物事がうまく進みすぎだ!」なんて思っていたのかもしれない。でもこの度結婚した2人にも実際に(actually)恋に落ちる出会いがあって、沢山の思い出を築いて結婚に至ったわけだから、きっとそういうものなのだろう。素敵な出会いや経験があってもホイホイと色欲のまま赴き自分の身体を切り売りしては関係を断ち、新たな場所に向かう自分の人生に辟易しては「何も俺だけじゃない。多くの人がそうしているじゃないか」と開き直る。そんな自分にこの映画はとても眩しく思えた。

実は今日、午前に結婚式にも同席した友人とジムに行ってその後レンタサイクルを借りて皇居の近くの公園でランチをした。音楽の話になって、この前更新された偉大なアルバムベスト500の1位になったThe Beach BoysのPet Soundsというアルバムに入ってるGod Only Knowsという曲の素晴らしさについて俺は熱く語ったんだ。
この映画のラストシーンで偶然その曲が流れた時、俺はどこかの宗教に属して何かの神を信仰しているわけじゃないんだけど啓示のようなものを感じた。馬鹿げてるかもしれないけどこの映画を観るべくして観たんだと思ったのだ。

俺は結婚する2人を見て、同時に世界も見たのかもしれない。ふと見渡せば、そこら中に愛が溢れていることに気付かされたのかもしれない。
そして何より、この度結婚した友人夫婦を誇りに思う。自分の親や会社の上司、その他多くのが人そうだったように2人は愛の名の下に結ばれて、共に歩む決意をした。それは、生半可なものじゃないのだろう。いつか自分もそんな決心をするのだろうか。自分にとって最高の相手を見つけた時に、その人の人生にも責任を持つような決意が自分にできるのかも分からない。この肉欲に塗れた男が友人夫婦がそうだったように周りのみんなまで幸福にできる自信もない。でも、あの結婚式に招いてもらって結ばれる2人を祝福した時、この2人のような人生はきっと素晴らしいものだろうと思えた。わがままながらこの幸せな2人を近くで今後とも末長く見ていたい。

最後にThe Beach BoysのGod Only Knowsでも一部和訳(ハイパー意訳)してみようか。

いつか君が僕の元からいなくなるような時が来ても

きっと人生は続く。でも信じて欲しい

その途端、僕にとって世界はちっぽけなものになるんだ

そんな人生にいったいどんな意味があるというんだ?

君なしの人生なんて神様にしか想像もつかない
EmiDebu

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