のっけからテンポもいいし、演出がともかく明るい。黒澤組の、前作『用心棒』の成功からくるものでしょうか、ある種の高揚感が、セリフや演出はもちろん、俳優の演技の隅々にみなぎっています。上昇気流のなかで作られた作品であるのは、もう冒頭から感じられます(あくまで個人の感想です。映画史的には違うのかも)。ユーモアも随所で炸裂するし、小道具の使われ方も前作より技巧的になって、『用心棒』が万葉集なら、こちらは古今和歌集、たおやめがかなり効いている。
三船敏郎演じる椿三十郎の造詣のほうが、『用心棒』の桑畑三十郎より好きという御仁も多いのではないか。しかしいずれも照れ屋で女に滅法弱く、人情家で、なかなかの策士。先手を読んであれこれ作戦を遂行するのが好きというところが、泰然自若の武士像とかけ離れている。この、小人めいているところがひとつの魅力なのだろう。本作では、三船敏郎の父性がまた見どころの一つ。そして圧巻は、最後の最後まで顔を出さない囚われの城代。この馬面の、最後の最後に披露されるとぼけた口上こそ、黒澤明オヤジの面目躍如するところだろう。気持ちいいねぇ〜
椿の使い方もいかにも黒澤明らしい。こういう演出を、今の監督ももっと積極的にするべきではないか。それから、言わずもがなの、決闘のシーンですね。男の憤怒をよく表している。憤怒する者は血がたぎっているでしょう。その読みから、あのような演出になる。じつに説得力があって、痛快この上なし。
本作、痛快コメディという側面もある。敵方の家来を演じた小林桂樹にはもう笑わされっぱなし。これまたとぼけた感じがまたじつにいい。