こたつむり

テルマ&ルイーズのこたつむりのレビュー・感想・評価

テルマ&ルイーズ(1991年製作の映画)
4.4
砂煙の向こう側にある場所へ。

うひゃぁ。これはやられましたね。
凡庸なタイトルで抱いた先入観を遥かに超える傑作でした。物語の構造としては単純な直線運動。複雑な要素など何も無いのですが…爽快なのに切ない物語に仕上がっているのです。

本作が見事なのは脚本。
週末の息抜きバカンスから一転、泥沼の展開にはまる《テルマ&ルイーズ》。それを観ている観客。その距離感がちょうど良いのですね。だから、彼女たちにイラつきながらも共感し、思わず前のめりになるのです。

また、物語が進むにつれて、彼女たちに訪れる変化や新しい事実の見せ方も手際が良く。《セクハラ野郎》と対峙する場面では思わず「イエス、イエス、イエース!」とガッツポーズを取りたくなるほど。うん。最近、ハリウッドで物議を醸した人たちは…本作を鑑賞して自省すべきでしょう。

それと、鑑賞後に知りましたが。
本作はブラッド・ピットの出世作だとか。
確かに80年代の雰囲気が強い作品ですが(1991年の作品なのに!)彼の周りだけは違う空気でした。やはり、スターは若い頃から輝いているのですね。

まあ、そんなわけで。
舞台となったアメリカ南部の乾燥した熱気が湿っぽい雰囲気を吹き飛ばしてくれたのか、リドリー・スコット監督に抱いていた“暗い作品を作る人”という印象が見事に覆された作品でした。

ただ、本作の注意点として。
作品の根底に流れているのは“女性の解放”というよりも“クソッタレな世界からの解放”だと思うので、そのシステムに従うことを“是とした人”には、きっと本作のような“爆発”は理不尽なものに見えることでしょう。

だから、逆に言えば。
常日頃から抑圧したものを感じ、それを実社会で発散させる機会が無く、それでいてギリギリの理性で留まっているような人ならば…無類のカタルシスを感じる作品だと思います。

やはり、ガス抜きは大切ですよね。
爆発する前に「ぷぷぷぷっ」と抜いたほうが良いのです(他人様に迷惑をかけない形で)。

あ。それと、本文で不穏当な表現をしてしまいましたが、まあ仕方がないですよね。“クソッタレな世界”は“クソッタレな世界”ですからね。でも、そんな“クソッタレな世界”だって蜘蛛の糸が垂れてくるわけで。それを示唆した本作は…やっぱり傑作だと思います。
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