風に立つライオン

テルマ&ルイーズの風に立つライオンのレビュー・感想・評価

テルマ&ルイーズ(1991年製作の映画)
4.0
 1991年制作、リドリー・スコット監督のロードムービーによる実話映画の秀作である。

 リドリー・スコットという監督もタッチと色彩を持った名監督の一人と思っている。
 下積み期のCM監督時代にその種が植えられたようだ。

 まずは79年のエイリアンを劇場で見た時、H.R.ギーガーの創り出す無機質と有機質が混在一体化したような造型美術に衝撃を受けたものだ。
 その後、グラディエーターでは空の移り行く映像をシュールレアリスム的な色彩で高速で変化させたりする。
 さらに、キングダム・オブ・ヘブンでは夜の砂漠に月明かりに浮かび上がる馬上のイスラム戦士など記憶に残る映像が続く。
 そして森の中の空間にはよく風花が舞うようにコスモスの種子様の様なものを漂わせたりする。
 そういえば「グラディエーター」の冒頭でも飛んでたな。

 このように密室追跡物が一ジャンルを作るようになったのを皮切りにSFから史劇、アクション、スリル&サスペンスなど守備範囲広く見応えある作品が並ぶ。

 特にこのテルマ&ルイーズは本がいい。アカデミー賞脚本賞に輝くのも分かるが作品賞は「羊たちの沈黙」に持っていかれている。
 スーザン・サランドンとジーナ・デイビスの演技もいいが、個人的にはテルマの夫役ダリルのクリストファー・マクドナルドが白眉と思っている。
 怒りの爆発やピザの上に立ち尽くす呆気に取られた感などリアクションの良さがたまらくいい。リドリーも同様なことをメイキングで語っている。
 で、もう一つ、砂漠で返り討ちにあった警官が車のトランクに閉じ込められ辛うじて空気穴だけ開けられ放置されたところに、黒人レゲェサイクリングマンが通りかかる。
 トランクを叩く音を聞きつけ助けるのかと思いきや、空気穴からマリファナの煙りを吹き入れる。涙が出るほど笑いがこみ上げて来る。多分普段のお返しなんだろうと思う。
 また、彼女達を何とかドロ沼から救い上げようと尽力する刑事役のハーヴィー・カイテルがいい味わいである。あのタクシー・ドライバーでジョディー・フォスターのヒモ役のスポーツを演った頃と比べると貫禄もついている。
 ブラッド・ピットもケチな詐欺師役で本格デビュー。出演料は6,000ドルだった。この詐欺師役にはあのジョージ・クルーニーがオーディションに5度落ちている。
 
 物語も素晴らしいがところどころに散りばめられる洒落っ気エピソードもスパイスとして効かすのが上手い。
 
 そしてこの詐欺師に有り金を全て盗まれ路頭に迷う中、道端の雑貨屋で見事?なまでの強盗をやらかしてしまうテルマ&ルイーズは大動員されたパトカー群を尻目に手を繋いでグランドキャニオンの谷底へ飛翔する。
 ふと「明日に向かって撃て」のラストのストップモーションカットを思い出した。

 なんだか分からないがショッキングで刹那的な悲しみの中に全てをかなぐり捨てた一種の解放感から来る安堵感や爽快感も味わうこととなる。

 最後にこれも個人的な好みだが終盤、夜明け前の砂漠を疾走しながら流れて来るマリアンヌ・フェイスフルの「The Ballad of Lucy Jordan」は泣けてくる。