河

ニーベルンゲン/ジークフリートの河のレビュー・感想・評価

4.2
ドイツ人に捧ぐって宣言した後、誓いや名誉を重要視する忠誠心の高さをドイツ人の性質として、それによるドイツ人の家系での他民族を巻き込んだ身内同士の殺し合いを描いていく。その殺し合いのきっかけは虚勢であり、その性質に起因する。そしてその虚勢から名誉が崩され、復讐が連鎖していく。ヴァイキングのような他民族はその性質を持たず、金や権力によって動くし復讐を重視しない。また、一部の主人公であるジークフリートは外部から来た人であり、その性質を持たないし知らない純粋な存在となっている。その性質を持ちつつも利用する存在として2人の女性がいて、特に二部の主人公であるクリームヒルトはジークフリートと同じように純粋さを持っていると同時にそのドイツ人的な性質も持っていて、それが段々と強化されていく。
敗戦後のドイツの状況に対して、過去の神話として鏡を突きつけるような映画。見てる側としてはその後ナチスが台頭することがわかっているため、その歴史を跨いだ繰り返しにかなりくらくらした。
ゲームオブスローンズや指輪物語の前身のような中世ファンタジーでもあり、善と悪の基準が崩壊するためどちら側の立場にも立てないって点でもゲームオブスローンズと共通する。ただ、裏切りまみれのゲームオブスローンズとは真逆で忠誠心を守り続けることが争いの原因となっている。
作り込まれたセットや画面の絞り込みによる高さのある一枚絵のような画面がこの監督の特徴のように思うけど、それがかなり研ぎ澄まされていて5時間近くずっと持続する。さらにクライマックスに向けて壮大なモブシーンがあり、映画の中でもこれが神話だと宣言されるように、大衆に共有される物語を打ち立てるための映画って感じがした。逆に言うと1ショットずつが独立してすごい映画で、ショットの繋ぎによる感動みたいなものはあまりないようにも思う。そういう意味で同じ時期のムルナウと真逆の方向性を行ってるようも思った。
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