キヨ

きみに読む物語のキヨのレビュー・感想・評価

きみに読む物語(2004年製作の映画)
3.9
<2015/11/7 dビデオ>
ある老人がある老婆にひたむきに語る、ラブストーリー。
かなりベタなものの、「対照」「相互」というテーマが幾度も感じさせる作品。

ある老婆が認知症を患っている。そこにある老人は通い続け、あるラブストーリーを語り続ける。その話はいわゆる身分違いの恋、すれ違いの恋で…というストーリー。
冒頭をだけで映画のあらすじを説明できてしまうほど、かなりベタな物語だけれど、
個人的に印象に残ったのは、「対照」というテーマだ。

語られる物語はいわゆる身分違いな恋で、それも貧富の「対照」をなしている。
それだけならいくらでもこの手の映画で語られているが、この映画ではその後も
いろいろな「対照」が描かれる。
例えば、語られる物語の主人公であるノアが彼女アリーの家庭環境を聞き、「自由ではない」というシーンがある。しかし、その後、あるトラブルがきっかけで彼が彼女との貧富の環境の違いから「距離を置こう」というシーンが出てくる。自由を語っていた彼が、本当は自由ではないことを示す、対照的な言葉である。
また、終盤アリーが 恋愛に対する、自分の「矛盾した二面性」を語る場面が出てくる。物語で「自己矛盾」についての授業風景が出てくるように、内面のこうした「対照」的な感情も描かれる。

人間誰しもそういう正反対で対照的なものと戦ったり、そのような感情を悩まされることがある。だけど人間の人生やコミュニケーションはそういうもので、人のことを想うということには「対照」的なものに触れることそのものである。だからこそ、中盤ノアが「君と会うたびにケンカばかり、二人は合わないことはわかってる。簡単じゃないんだ。二人でうまくやるのはすごく難しい、努力が必要だ。でも僕は努力したい。ずっと君が欲しいから。」というのがこの映画示すテーマの一つだと思う。

この映画の原題は「The Notebook」というタイトルで、それが示す通りこの物語は老人があるノートの内容を語ることで進む。そのノートを書いたのは誰か、誰が誰のために書いた物語なのか。そのノートのを書いた人からのメモを老人が読むシーンがあるが、ここにきて「対照」的なことを想う人生が、「相互」的になることを暗示している。そう考えると「きみに読む物語」という邦題も別の意味を帯びてくる、いい邦題だと思う。

あわすじや見終わった後も簡単に説明できてしまうようなベタな物語でもなぜか感動してしまうのは、誰しも感じる人生や愛のテーマを丁寧に語っていたからだと感じる映画でした。
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