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ゆきゆきて、神軍のlarabeeのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.5
【あんな車と一緒に走りたくない】

特殊漫画家、根本敬などがメディアで取り上げたり当時のサブカル界でも話題満載であった本作。怖いもの見たさでレンタルしてからもう35年になるのか。

奥崎の強烈なキャラだけが印象に残っていてストーリーは薄れてきていた。それじゃあ勿体無いやろうと改めて今鑑賞。

観て良かった。きっとこんなドキュメンタリーはもう撮れない。奥崎の様な狂気はもう画面に映せない。そもそも奥崎の様な人物は出てこない。

奥崎は戦争で命を落とした仲間が死んだ本当の理由を、戦死した仲間の親族や同僚、上官に取材し、真相に迫っていく。それだけ聞いたら奥崎がやってる事は至極マトモなのだが、彼は不動産屋を殺害した殺人犯であり、取材中相手がいい加減な応答をすると突然キレ出したり、そんな姿を見るととてもマトモな人物とは思えない。自分で相手を威嚇して「警察呼ぶなら呼べ、なんなら俺が呼ぶ」って自分で警察に電話するなんてとてもマトモな人物とは思えない。

やってる事はメチャクチャ。でも奥崎の主張を冷静に聞いていると誰がマトモなのか?と考えてしまう。

戦争だからって何をやっても良い訳ではない。彼の追及は、上官による非合法な殺害や人肉を食していた事実を暴いていく。

非常にショッキングな内容だが、どんな手を使ってでも真実を暴こうという奥崎の執念と、それをフィルムに収めようとした原一男監督達の執念が爆発し、とんでもない素晴らしい作品に仕上がっている。

昔は奥崎の狂気だけに目がいっていたが、作品としての完成度の高さも感じられた。そう、ストーリーは当たり前の様に面白いが、それを作品として昇華させた監督始めスタッフの力量も凄いと感じられた。本作はドキュメンタリーの金字塔と言っても過言ではない。
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