小松左京原作による80年代制作のSF特撮映画。主題歌「VOYAGER〜日付のない墓標」(1984:松任谷由実)は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2021)でオマージュされた。同年作「ゴジラ」(1984)の橋本幸治監督のデビュー作。
西暦2125年。太陽活動の減少化に対し地球連邦では「木星太陽化計画」を進めていた。計画主任の本田英二(三浦友和)は、長らく音信不通だった恋人マリアと再会を果たすが、彼女は計画の中止を求める過激な環境保護団体「ジュピター教団」のメンバーとなっていた。そんな中、太陽系にブラックホールが迫っている事が判明する。。。
「日本沈没」(1973)のディザスタープロットを地球規模にスケールアップしたような印象だった。地球の危機を回避するために木星を爆破するという壮大なスケール感は素晴らしい。しかし本作に対する“内容を詰め込み過ぎ”との低評価は否めない。
個人的には、主人公が共感性を誘うキャラ設定だったらもっと統一感が生まれたように思う。演ずる三浦友和も友人の死や恋人の裏切りよりも自分の使命を重んずる性格に見えて、何だか人間味が薄く親しみやすさは感じられなかった。「アウトレイジ」(2010)の加藤会長や「葛城事件」(2016)の凶悪な父親こそ彼の秘めていた持ち味を発揮できる役柄だったのかもしれない。
「シン・エヴァンゲリオン」最後のクライマックスに、庵野監督が「VOYAGER」を流した気分が何となく解ったような気がした。橋本監督による本作と「ゴジラ‘84」は時期的にも庵野監督ら第一次オタク世代にとっていわば最後の“祭り”に当たる。戦後昭和サブカル史の総決算たる内容と特撮だったが興行的には両作とも振るわなかった(橋本監督は本作で監督デビューしたが、同年の「ゴジラ‘84」で興行的に連敗し2本きりで監督を引退した)。要するにひとつの時代文化が終盤に来て煮詰まっていた結果と思われる。「エヴァンゲリオン」の幕引きに同曲が用いられたのは、かつて庵野監督が本作に感じたであろう”祭りの終わり”へのノスタルジーだったのではないか。
本作公開後、残りの昭和時代5年間は特撮・アニメの冬の時代となり、少年ジャンプが「キン肉マン」や「北斗の拳」などで黄金期をスタートする。昭和63年に「AKIRA」(1988)が公開されるのを皮切りに、時代は世紀末モードとなり平成時代へ突入する。
※本編中に「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964)のビデオを見ているシーンがある。監督は本多猪四郎。特撮監督は円谷英二。本作の主人公の名前“本田英二”は両監督の名前を組み合わせてある。