垂直落下式サミング

夜の訪問者の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

夜の訪問者(1970年製作の映画)
4.3
『ドクター・ノオ』のテレンス・ヤング監督がブロンソンをフランスに招いたクライムアクション。
今回ムキムキなブロンソンは、死別するまで連れ添うこととなる奥さんと仲良く共演したためか、いつもより気合いが入っているように思える。当時のブロンソン人気を物語る太い腕と厚い胸板で、Tシャツにジーンズというラフなスタイルで登場し、ニコニコと優しい笑顔を見せる。油の乗ったブロンソン絶頂期の作品だ。
妻子と共に平和な暮らしを営んでいた貸船屋ジョー(ブロンソン)に、かつての仲間が犯罪の片棒を担げと接近してくるサスペンス。朝鮮戦争で従軍していたジョーは、色々あって軍刑務所に収監されてしまうが、そこで知り合った仲間と共に脱獄を謀る。しかし、仲間の一人が看守を殺してしまったため計画は失敗。ジョーだけが脱出に成功し、残された仲間たちは重罪をくらってしまう。時は流れ、仲間たちは出所した後ギャングとなり、彼等しか知らない後ろ暗い過去をちらつかせながらジョーに犯罪の片棒を担ぐよう脅迫するのだ。妻子を人質にとられたジョーは、彼の所持する船で麻薬を密輸する運び屋となることを強要される。過去の脱獄の事実を知られれば今の幸せが崩れてしまう。警察を頼ることもできずジョーの孤独な戦いがはじまる。
敵の一瞬の隙をみて反撃に転じるブロンソンの身のこなしが見物。訪問してきた男が座っている机を蹴り落とし形成を逆転させ、オープンカーのドアを両足で飛び越え攻撃に転じる。さらには、ボスの情婦を誘拐し監禁することで、妻子との人質交換までこぎつける。追い詰められては逆転を繰り返すが、それは単調な反復演出でもなければ、単なるご都合主義でもなく映画的に確かな妥当性を有し、娯楽映画の設計プロセスに則した展開といえる。映画でブロンソンが窮地に立たされれば、彼はその障害を必ず打ち破り突破する。そうならなければならない。彼がブロンソンだからだ。無二の主人公性を持つ男。それがブロンソンなのである。
リヴ・ウルマンが夫の過去を知り動揺するジョーの妻を好演しており、敵の前では気丈に振る舞い強い女であろうと敢然たる姿をみせるが、時折儚げな弱さも垣間見せる層の厚いキャラクターを演じてみせている。仲間の銃弾を受けて致命傷を負ったボスを介抱するうちに、二人の間に奇妙な連帯感が生まれるのも面白い。ボスを演じるのはイギリスの名優ジェームズ・メイソン。ジョーや彼の家族と言葉を交わすうちに、復讐に駆られた女々しい小悪党の中で燻っていた僅かばかりの義侠心が、ゆっくりと揺れ動きはじめる場面の演技など素晴らしいと感じた。やたらと強い寡黙な男ブロンソンを中心に添え、リヴ・ブルマンとジェームズ・メイソンの演技派が脇を固めることで迫力のアクションも比較的に落ち着いている印象。
例によってブロンソンが笑っちゃうくらい強すぎるので、わりと序盤で敵の正体が明らかになってからは緊迫感が失せてしまうが、悪党の人間味溢れる憎めなさがブロンソンの異質な存在感と対になっていて、全体的にかわいい映画に仕上がっている。