カツマ

殺人の追憶のカツマのレビュー・感想・評価

殺人の追憶(2003年製作の映画)
4.5
闇の中から這い出る悪魔。だが、その顔は雨粒の滴る宵の先へと溶けていき、静かなる狂気が穏やかだった村を恐怖のどん底へと突き落とす。
韓国映画に『重い』『胸糞』というイメージを植え付けた源泉として長く記憶に留まり続けている作品だ。個人的には未だにベストオブ韓国映画に君臨しており、あの背筋に悪寒が走るラストシーンは何年経っても忘れられない追憶となって心の底に溜まり続けていた。

先日『パラサイト』がカンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いたポン・ジュノ監督がいよいよ韓国映画シーンのトップへと上り詰めた記念碑的な作品がこの『殺人の追憶』だ。2003年当時、韓国国内で爆発的なヒットとなり、『シュリ』や『JSA』といった世相を反映した物語とはまた違う、現代韓国の異形のドラマ大国としての姿が本格的に頭角を現したことを強烈に印象付けた。完成度の高い脚本と名優ソン・ガンホの存在感に引っ張られながら、実在の未解決事件がその姿なき毒牙を容赦なく剥いていく。

〜あらすじ〜

1986年、そこはひっそりとした華城市の田んぼのほとり。そこで発見された女性の死体を捜査しにやってきた刑事のパク・トゥマンとチョ・ヨングは、殺人犯を特定するため、町中の噂やあやふやな証拠をもとに何人かを尋問にかける。だが、拷問まがいの捜査は全く身を結ばず、そうこうしているうちに2人目の犠牲者が全く同じ手口で殺された。
そこでパク刑事らは、噂を頼りにしょっぴいた知的障害者のグァンホから供述を取ろうとするも、結局決定的な証拠は得られなかった。
ソウルから来た刑事ソ・テユンが赴任してくると、彼の知的な捜査の甲斐もあり、まずはグァンホの無実が証明される。そして犯人が雨の夜に殺害を行なっているというパターンから、3人目の犠牲者の遺体の発見へと繋がった。
だが、出てくるのは被害者の遺体のみ。犯人の実像は見えず、囮捜査も身を結ばない。八方塞がりの中、今度は女性警官のギオクから、殺害の夜にラジオで毎回同じ曲をリクエストする人物がいると聞き・・。

〜見どころと感想〜

この映画は実際に起きた韓国初の連続猟奇殺人事件、華城連続殺人事件がベースとなっている。未解決事件として歴史に深い染みを残したこの題材を、序盤はコメディタッチに、後半には鬼気迫る迫真のサスペンスとして、息もつかせぬ展開で見せていく。犯人らしき人物が何人も捜査線上に上がるが、毎回拷問と自白の強要に時間を割く間抜けな地元警察はいつまでも犯人に踊らされ、事件解決の糸口など微塵も見えてこないのだ。

そんなハズレばかりを引き続ける前半部だが、それらの中にも巧妙な伏線が張られており、後半怒涛のドラマパートで回収されていく展開はやはり見事。お前は犯人なのか?それとも犯人ではないのか?鑑賞者側もそんな刑事たちと同じ叫びを繰り返さずにはいられない。だが、分からない。分かるはずがないのだ。何しろこの事件の真犯人を知っている人間など、どこにもいないのだから・・。

〜あとがき〜

15年ぶりに鑑賞しましたが、犯人っぽい人物が劇中に登場していますね。あまりに地味なシーンなので昔は気付きませんでしたが、恐らくポン・ジュノなりの推理はそういうことなのかなと思いました。確かに何年もの間捕まらず、拡大捜査を潜り抜けて連続殺人を行なったとなると、確かにその推理の可能性は大いにある、か・・。
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