土の中からこんにちは太郎さん

殺人の追憶の土の中からこんにちは太郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

殺人の追憶(2003年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ポン・ジュノ監督作ということで鑑賞。
サスペンスでありながら、複雑な意味合いを含む喜劇的要素もある、なんだか不思議で複雑な映画。
2019年に真犯人が究明されたこととも照らし合わせると、エンターテイメント以外の楽しみシロもある噛みごたえのある作品。
鑑賞後の感想と、実際の事件の流れを知るにあたり、尻の座りの悪い気持ちになる作品ではある。

映画=エンターテイメントととして観た場合、ジャンルの位置付けは主にはサスペンスドラマだと思う。
ただ、事実(現実の犯人究明という観点)から、ひとくちにサスペンスドラマとは位置付けてしまえない複雑さも持ち合わせている。
警察の権力の暴走によって、事件解決に漕ぎ着けられなかったのはこの映画から見ても・事実から照らし合わせても明らか(劇中では描かれていないが、実際には捜査に285万人を動員し、取り調べを受けた人は延べ2万2000人以上。
その内、あらぬ嫌疑をかけられたことを苦に自ら命を絶った人が4人も居る点からも警察側の捜査は杜撰。
※ニュース記事"30年でようやく「華城連続殺人事件」容疑者を探し出しても警察が笑えない理由とは"より
結局、事件の途中で真犯人に聴取していたにも関わらずおめおめ取り逃してもいる)
以上のことから、皮肉なブラックなコメディ要素も多分に含まれている。
別の事件の判決から無期懲役になっている真犯人の視点からすればこの映画と、その社会的な反応を知ればこの上ないコメディに見えるだろう。
実に皮肉で腹立たしい。

映画としての観点から見れば、シリアスとコメディが織り成す作風はグラデーション的でありモザイク的でもある。
制作・公開当時は未解決事件であったこと、後に真犯人が判った事実は中々に複雑で皮肉。
そういった観点から、映画としても現実の観点からしても何回も噛み締めしろがある。

ただ、韓国的というかアジア的な映画の傾向として、終盤に差し掛かるにあたりドラマティックに描き過ぎる点だけは、それまで折角緻密に描いてきたいた故に水を差している感を憶えた。
警察の暴走が皮肉で批判的に描かれている点はすごく筋道が通っていたのに…。

劇中の、警察側の決め付け的で当て推量な捜査・DNA結果が犯人で無い事を裏付けているにも関わらず、激情に駆られて手錠をかけた相手に暴行を加えてそのまま「消えちまえ」と言いながらも発砲までしてしまったあたりは盛り上がり重視感がかなり強い(あの優男はあの後どうなったんだろう?)
2019年に犯人まで辿り着いた事実からしても、暴走している警察サイドにはつくづくフォローが出来ない。
徹頭徹尾、後味の悪い映画・事件でもやもやする。
エンターテイメントとして観るには気持ちの整理をつけ難いし、現実の観点から見てもやっばり尻の座りが悪い。
とことん複雑な気持ちになる映画。