亘

ヤーバの亘のレビュー・感想・評価

ヤーバ(1989年製作の映画)
3.6
【"魔女"との対面】
西アフリカ・ブルキナファソのとある村。この村には"魔女"と呼ばれて虐げられた老婆がいた。少年ビランは親友の少女ノポコと遊んだときに"魔女"と遭遇したことをきっかけに「ヤーバ(おばあちゃん)」と呼びかけながら"魔女"との親交を深めていく。

アフリカの小さな村を舞台に、少年が虐げられた"魔女"と親交を深めていくストーリー。色眼鏡なしで相手を見ることの大切さがテーマであり、ストーリーとしては非常にシンプルで物語の基本形のような作品。だけれども本作は軽かったり説教臭かったりしない。その理由としては、この村が電気・ガス・水道もないような素朴な村で余計なことにとらわれずストーリーに集中できるからかもしれない。

そしてアフリカの村の暮らしを垣間見ることのできる貴重な作品でもある。素朴でありつつも、怪しげなものや外部の者は村八分にして排除する村社会。そして一部の保守的な男性たちが発言力を持ち、村の治安は表向き保たれているように見える。たしかにこのような外部との交易もないような村では、自分たちの生活さえ保たれればよいと考えるのかもしれない。ムラ社会という点でも本作は原型を見せてくれる作品かもしれない。

ビランは親友ノポコと遊んだ帰りに”魔女”を見かける。彼女は村民から虐げられ村のはずれに1人で暮らしていた。そして村民はあらゆる災いの原因はその”魔女”のせいだと考えていた。しかしその日村に帰るとある小屋が火災に見舞われる。そして村民はいつものごとく”魔女”のせいだとして子供たちは石を投げつけたりし始める。しかし火事の起きた時間帯、”魔女”はビランたちの目の前にいた。ビランは”魔女”がいたたまれなくなって彼女に声をかけるのだった。

それからビランは"魔女"の元に食事を運んだりして徐々に打ち解ける。彼女からは「おばあちゃんなんて呼ばれるのは初めてだ」ともいわれる。住民たちや厳格な父親から注意をされても気にせず"魔女"と仲良くするし子供たちと喧嘩までする。正直仲良くなるのがスムーズすぎたりビランが純粋すぎるような気もするけど本作ではそこは主題ではないような気がする。それに彼の素朴さ・純粋さは先進国の町では出せなくて、むしろこの素朴な舞台だからこそマッチしているような気がする。

そんな中でノポコが突如病に倒れる。周囲の村人はマラリアだからすぐ治るというがなかなか治らない。果てには呪術師から、原因は”魔女”で村から直ちに追い出せと言われて実際に追い出してしまう。しかしビランは、"魔女"に助けを求め、彼女は隣の村の治療師を連れてくるのだった。

結果的にノポコは治療師の薬で治るわけだけど、その後”魔女”自身が倒れてしまう。村人からすれば厄介者の死だけど、ビランからすれば非常に大きな喪失だろう。

そして本作で最も興味深いのは、その後に明かされる、老婆が"魔女"と呼ばれる理由。これが非常にあっけないのだ。「それだけ?」という理由で彼女は生まれてからずっと虐げられてきた。そんな彼女の生涯は辛かっただろうし、だからこそ余計にビランの存在は大きかったのかもしれない。それはビランにとっても同じで、そんな些細な理由で大の大人たちが老婆を忌み嫌い、亡くなっても何もなかったかのように生活するのだ。それでもその後走りだすビランとノポコの姿からは明るさ希望が感じられて、この子たちは偏見もなく生きていけるのではないかと感じた。

印象に残ったシーン:ビランが老婆に助けを求めるシーン。
亘