垂直落下式サミング

パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンドの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.5
大人気海洋活劇シリーズの第三作目。
前作でタコのオバケが海軍に弱みを握られてしまったので、全世界の海のパワーバランスが崩壊。オープニングで映し出される裁判のシーンでは、実際にカリブの海賊たちが拠点としていたトルトゥーガ島に暮らす住人たちが、海賊行為に加担したとして女子供までもが次々と首を吊られ処刑されていく様が撮され、支配階級の利益追求のために人々の自由が廃されてゆく無情な世の到来を物語る。
アウトローにとって生き難い世界となった海が冒険の舞台となり、生き残った海賊たちは連合軍を組織し、英国海軍と東インド会社に決死の戦いを挑むのだ。
まず、やはり上映時間170分が長く感じられた。前作で死んでしまったジャックを死後の世界から救いだす戻す件は超要らないと思うんだけど…。普通に「実は生きてた」っていうことにしちゃえばよかったのに。あんなもんは王大人みたいなやつが蘇生したことにしちゃえばいいんですよ。あの世から連れ戻す件をカットすれば、もっとスッキリした作品になってたんじゃないだろうか。
このシリーズの面白さは、海賊たちの力関係をめぐるパワーゲームの妙だ。特に一作目の見所は主にそれで、不利な状況から一気に逆転したり、優位な立場から一転して追い詰められたりするトンチの利いた攻防が巧みに描かれていたため牧歌的な作りながら物語の緊張感が持続していたが、今作はキャラクターが多すぎて難解。
誰が味方で、誰が敵で、誰と誰が何の件で争っているのかを理解するのが疲れる。『仁義なき戦い』みたく死亡したときテロップ出してほしい。それに関してはテレビ放映版が親切で、CMが明ける度に「ここまでのあらすじ」をいちいち整理してくれて本当に助かった。
ラストの巨大な渦の中で帆船同士が大砲を撃ち合うシーンがバカっぽくて面白かったんだけど、あれだけ古今東西の大海賊艦隊が集っているのに他の海賊団が英国海軍率いる大艦隊とどうのように戦ったのかまったく描かれないので、物語の規模が小さく見えてしまう。あんまりCGはスゴくなかったけど、敵味方の位置関係と帆船の移動速度を加味した海上戦闘をみせてくれた『エリザベス・ゴールデンエイジ』のアルマダの海戦の方が楽しかったな。
にしてもバルボッサにデイビー・ジョーンズと、やたらと船乗りを呪っちゃう海の神様は気分屋だな。山の神は人間が堕落し、自然に対する畏敬をなくした時はじめて怒り、祟りをもたらしたり生け贄を要求したりするので、八百万の神のなかでは比較的温厚に思える。