なべ

サインのなべのレビュー・感想・評価

サイン(2002年製作の映画)
3.8
 ライブラリからサインを引っ張り出してきてシャマランを再評価。

 めっちゃおもしろい!それも初っぱなから。不穏でただならぬ雰囲気がクライマックスまで持続。てかどんどん加速する気持ちよさ!
 タイトル曲からヒッチコック感が強い。ジェームズ・ニュートン・ハワードのサウンドスケープが、もろバーナード・ハーマンのそれで、不安期待値が高まる。
余談一切なしのストーリーテリングはまさに直球勝負。編集にも無駄がなく、一家族だけでどんだけ地球規模の危機を描くんだよと感心する。上手すぎるわ。
 これのどこがおもしろくないんだ?
 宇宙人のデザイン? まあそれはわかるw
宇宙人が気絶したモーガンを抱いたままもじもじするところ? ああ、それもわかる。早くおしっこしてこいとぼくも思った。
でもそれくらいしか思いつかないけどな。
もしかしたら「そんな映画とは思ってなかった」という、不意に訪れる主題のところか?

 シャマラン作品はオチがどこかお伽話めいてて、人によってはそれまでのスリルやサスペンスとチグハグな感じがするのはわかるけど、そこがシャマランのシャマランたる所以。その意外性こそが肝なので、それが嫌だと言われたら、もうどうしようもない。
 そんな話⁉︎ってなる瞬間を楽しめるか楽しめないかーーここだよな。
 ジャマラニズムが合わない人は、ぜひ2回目の鑑賞にトライしてほしい。話がわかったうえで見てみると、すべての出来事が最後の裏切りに向かって周到に配置されてるのがわかるから。その巧みな設計とそうとは気づかせない演出に舌を巻くから。

 スプリットのレビューでも書いたけど、シャマランは秘密主義が過ぎるのだ。そりゃつくる側はすべてをわかってるから隠したくなる気持ちはわかる。わかるけど、見る側はその仕掛けを見破れてないんだから。観客を買いかぶり過ぎなんだよな。昨今の客は昔の映画ファンのように注意深く観てくれないし、せっかく凝りに凝ったご馳走をつくっても、ハンバーガーと同じ感覚で消費しちゃうんだから。だからもう少しヒントを事前に流して、弱いバイアスをかけておいた方がいい。サインの場合だと、「すべての偶然は必然だった!」とか、「すべてのしるしはシャマランによって周到に仕掛けられていた」とか、公開前に漏らしておくだけで評価は随分変わったはずなのに。
 そういう意味でシャマランの作品はながら見には適してない。スマホ見ながら味わうなんてことは到底できないのだ。
凝った映画は、それなりに観る側のリテラシーが求められる。ある程度の理解力と注意深さと集中力が不可欠なのだ。

 先ほどは直球勝負と書いたが、実は壮大な変化球だったことがクライマックスでわかる。エイリアンの地球侵略は主題ではなくて、ただの状況設定だったのだ。主題は神のしるし。だからグラハムは元牧師なのであって、彼が信仰を失い、また取り戻す奇跡の話なのだ。
 そうとわかれば宇宙人の造形もまあいいかと目を瞑れるでしょ。そうとわかれば、壁に十字架の跡がうっすら見えるところにグラハムの失意が見えるでしょ。そうとわかれば「見て!かっ飛ばして!」という妻の言葉に涙しちゃうでしょ。そうとわかればモーガンの喘息も、ボーがあちこちにコップを飲み散らかすのもすべて納得でしょ。

 以前観たけどおもしろくなかったよって人は、それらを踏まえて、もう一度注意深く観てみてほしい。
 誤解したままだともったいない。ほんとにご馳走なんだから!
なべ

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