こたつむり

孤高のメスのこたつむりのレビュー・感想・評価

孤高のメス(2010年製作の映画)
4.0
♪ 明日が怖いのは 明日を想うから
  明日を想うのは 今を生きるから

ベタな題材、ベタな演出。
「もうベタベタやわあ」なんて言いながら、僕の頬もベタベタ。涙腺崩壊が止まりません。

思うに“覚悟”を描いた物語だから良いのです。
命を救うため。子供のため。自分の信条のため。理由はどうであれ、ひとつの目的に突き進むときに後ろ髪を引かれないように“覚悟”を秘めた選択。

この世に絶対的な正解なんてありません。
だから“正解を選ぶ”覚悟が大切なのです。これに泣かずに何に泣くのか。哀しいから泣くのじゃあないのです。明日の光を貴ぶ涙なのです。

また、距離感が良いですね。
物語のど真ん中にいるのは孤高の医師を演じた堤真一さんですが、夏川結衣さんを語り手にすることによって、視点が前に出過ぎないのです。これは大切なこと。

それでいて手術の場面は熱量高く。
臓器が微妙に上下に動いたり(呼吸しているんですものね。考えてみれば当然です)血液で徐々に赤く染まったり。そんなリアルがたくさん詰まっているので、ググっと心は前のめり。

そして、説明口調のセリフは最小限。
少し音楽に頼りすぎている面はありますけど、許容範囲内だと思います。なので、受け手側で色々と心情を汲むことが可能なんですね。これも大切なことです。

あえて難を言うならば、一部の演出くらい。
特に「悲しい場面=雨」の思考停止は残念な限り。せめて曇りの時に撮影してほしいものです。影が出来ているのにずぶ濡れになる雨は矛盾だらけでしょう。

あと、生瀬勝久さんの配役が残念。
生瀬さんはイヤミな役を演じても好感度が下がらない稀有な資質なんで、心底から“嫌な奴”は演じてほしくないのです。

まあ、そんなわけで。
命を救うことだけに情熱を注ぐ医者の物語。とは言っても『振り返れば奴がいる』の石川のような“暑苦しさ”はありません。もっと上品で、もっと気高い物語です。ベタなことを許容できる向きは是非。
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