大傑作!!
ヴィスコンティはまだ5作目だけど、これはヴィスコンティの最高傑作だと感じる。
ドイツ三部作の第一作。
ナチスが政権を掌握した1933年。
ナチスに巻き込まれる財閥の権力闘争と崩壊を退廃的に描く攻めの一作。
全編に漂う背徳のエロティシズム。
淫靡な人間関係と美を拮抗させ、決して下品な作品にさせない貴族ヴィスコンティの品格。
絢爛豪華な美術は今作でも健在で、歌川広重の絵が飾られているのを見つけて嬉しい気持ちになる。
狂乱の音楽が刺激的でカオスな世界へ誘う。
カッコいい!
登場人物のほとんどが狂気をはらんでいる。
「ベニスに死す」のアッシェンバッハはここではダーク・ボガートを蹂躙するナチスの親衛隊。
強大な権力を笠に、一族を操り人形にして高みの見物。
当主の息子の未亡人ソフィー役が圧巻すぎたイングリッド・チューリン。ベルイマン監督の常連俳優なのも納得の、どすの効いた迫力ある演技。
ラストの白塗りは、「ベニスに死す」と共通する自意識の崩壊。
ヴィスコンティ作品のつながりを感じられる一端だった。
今作で最も素晴らしかったのは、主役ではないのに主役としか言いようがない圧倒的存在感と美しさを示したヘルムート・バーガー。
女装や全裸、オールバックのスーツ姿など、どれをとってもキマってる。
ナチス親衛隊の制服姿はフォトジェニックで、ゾクゾクするほど美しい。
表面的な美しさから背徳の美を引き出す、パートナーであるヴィスコンティの愛を感じた。
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今作は、ストーリー自体はシンプルだけど、人物相関とドイツの歴史的背景を頭に入れていないとさっぱり理解できない。
「長いナイフの夜事件」というナチスによるナチス突撃隊の粛清が話のキーになる。
ナチス突撃隊とは、共産党や反ナチからナチスを守る組織。司令官のレームはヒトラーの古くからの同志であるが、独自の指揮をとるようになり、ドイツ国防軍と対立。
抑えきれなくなったヒトラーは突撃隊を粛清する。
ほぼ史実に沿った内容といえる。
武器を供給する財閥とナチスの癒着。
一族離散を左右するそれぞれのイデオロギー。
憎悪を生み出し懐柔する悪魔のナチズム。
ナチスを描くことで、権力が拡大していく政治システムや社会にはびこる既得権益を描いている。
反ナチスのヘルベルトのセリフを借りた強いメッセージがある。
「傍観していた我々の罪
ナチスは我々が創ったのだ」
ヴィスコンティはインタビューでこう語っている。
「最も大切なことは、当時の出来事を批判的に受け止め、人々が忘れないこと」
民主主義はしっかりと守らなければ、独裁の芽はいつでも我々に忍び寄っている。
非常に政治的でありながら、官能と背徳の極みを尽くしたヴィスコンティの美学。
三島由紀夫も大絶賛。
これは一見の価値ありです。