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地獄に堕ちた勇者どものzhenli13のレビュー・感想・評価

地獄に堕ちた勇者ども(1969年製作の映画)
4.5
ヘルムート・バーガーの訃報を受けて、十数年ぶりにDVDをひっぱり出してきた。
ヴィスコンティの作品では一番好きかもしれない。
ダーク・ボガードの本作での凡庸さや哀れさも『愛の嵐』の次に好きだし、イングリッド・チューリンの頽廃は『叫びとささやき』の彼女と同じくらい好き。
そしてヘルムート・バーガーの扱いはやはり特別だなと改めて実感した。彼の演ずるマルティンが文字通りクィアな存在として鮮やかに妖しく登場したのち数々の衣装とともにその人間性を次々と変容させていくさま(親衛隊の制服に身を包むバーガーは言わずもがな、愛人宅へ通うときの茶系やベージュのスーツ姿も素晴らしい)は、つねに脆さと歪みを含んだ役柄となっていて見事。そして彼の変容はナチスの台頭と連動する。

プロイセンからナチスドイツへ、貴族文化からファシズムへ。伝統の崩壊をただただ見送るしかないようなヴィスコンティの作品ではほんものの貴族を想像させる所作が見られるのも愉しみのひとつ。ヨアキム・フォン・エッセンベックを演ずるアルブレヒト・シェーンハルスが背広を老執事に着せてもらうと、労うように執事の肩をぽんぽんと叩くところで長年の主従関係が伺えるようになっている。執事は流れるように主人の先回りをして扉を開ける。本作の場合そういった場面は少なくて、どちらかというと貴族文化崩壊への憂愁のいとまも無く、一族の権力争いがあっという間にナチスの波に呑まれていくさまの描写に重きを置かれている。

「長いナイフの夜」のシークエンスも好きで、以前はもっと長ーく感じたものの今日観たらそうでもなかった。ここでもヴィスコンティの嗜好がいかんなく発揮されていて、赤い照明の下でへべれけに酔っ払った突撃隊たちが長々と歌い続ける。その中にも女装が崩れた隊員らが散見される。胸筋もあらわにネックレスとガーターをつけた若い隊員が虚ろに歌い、この無名の役者によって夜明け直前の湖畔での異変を察知されることになる。だらだらだらとした宴から一気に緊張感を帯び親衛隊による粛清の惨劇となる流れがまた素晴らしい。

にしても一族の中で全く傷まずに済んだのはヘルムート・グリームのアッシェンバッハだけなのだ。誰が死のうが誰を殺そうが全く顔色を変えず、彼だけが常に口元に笑みを湛えていて、すべての糸を引いて影の権力を掌握することになる。
親衛隊となったヘルムート・バーガーのナチス式敬礼と彼のクローズアップにオーバーラップする鉄工所の赤く燃える溶鉄で終わるが、ラスト近くになってヘルムート・グリームは全く姿を表さないのが不気味でもある。ここでの勝者はグリームで、しかしその権力も十年のうちに崩壊の途を辿ることを我々は知っている。

オープニングのインダストリアルな劇伴も記憶に残る。音楽がモーリス・ジャールだったの知らなかった。
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